【週俳12月の俳句を読む】
一休も利休も
谷口摩耶
一休も利休も障子の日差し恋ひ 戸松九里
こう詠まれてみると、一休も利休も「休」の字を持つ二人だが、二人は全く関わりがないにもかかわらず、障子を通した冬の日差しは、それぞれの生き方にほどよい明るさなのだと、改めて気付かされる。
21世紀の現代にまで語り継がれてきた一休と利休。
一休の障子からは雪深い長野の、貧しい障子の中の暮しが思われ、利休の障子からは秀吉の時代に翻弄される中で追及していった、簡素で洗練された茶室の中の佇まいが思い浮かぶ。二人は全く違う時代と環境の中で、それぞれが遣り切れない思いを残して人生を終えている。
日の当たる障子の内側とは、心の奥の遣り切れない思いを包み、籠らせているところなのだろうか。
ひよいと出す手が綿虫を殺めけり 山崎祐子
冬のどんよりとした白い空を見ていたとき、ふっと視界に綿虫が入ってきた。今まで白い空を見ていたはずだったが、急に綿虫に焦点が合ってしまった作者は、もう空を忘れてしまっている。よく目を凝らしてみると、綿虫は結構たくさん飛んでいたのだろう。そして、作者が思わず手を伸ばすと、何と綿虫に届いてしまったのだ。綿虫は温かい手に触れると、間もなく死んでしまうという。
思いがけなく微かな生命を奪ってしまったときの、一瞬の作者の戸惑いが手に取るように伝わってくる。自然に対して「ごめんなさい」と呟く、優しい作者の姿まで見えてくる。
第293号 2012年12月2日
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第294号 2012年12月9日
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第296号 2012年12月23日
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第297号 2012年12月30日
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