【週俳1月の俳句を読む】
新年詠を読む今村恵子
恒例のこの欄はおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがある。
総合誌なら1月号の締切はまだ秋のはず。どうしても大上段に構えた“らしい”句しかお目に掛かれないのが実情だ。もっとホットでリアルな新年の句があっていいんじゃないか、そんな欲求を満たしてくれるのが「週刊俳句」のいいところ。
今年も多士済々、本格派・古典派から“どこへ行くんだ派”まで読んでいて飽きない。
それぞれに雑煮語れば庭に鳩 江渡華子
まだ若い同士数人が集まっての、はたまた新婚を交えての家庭の景か。出された雑煮を見て、一人が「家のと違う!」と言ったのに始まって、それぞれの生まれ育った風土に心を至らすという仕掛け。配した鳩はこの一年が無事でありますようにとの平安の象徴とも。何気ない中にも正月らしさに溢れている。雑煮は、関東はすまし汁に焼いた角餅、京都・大阪では白味噌汁に煮た丸餅。ちなみに我が故郷長崎ではすまし汁に煮た丸餅だった。
雑煮といえば、
雑煮餅のまわりの空気が変である 金原まさ子
思わず笑ってしまった。安倍川にも磯辺にも力饂飩にもなれたのに、よりによって元旦の雑煮に使われようとは。いつもと違って、どことなく荘厳できりっとして、それでいて華やかで賑やかな雰囲気をそれとなく感じている餅。下五の措辞が秀逸。もちろん作者の感慨なのだが、餅の気持ちになって読むとよほど面白い。
笑いといえば
はにほへといろはにほへとふくわらひ 山下彩乃
いろはにほへとと言えば万太郎の竹馬句が条件反射のように浮かんでくる。いろはにほへとちり…を上手く使って忘れられない一句だが、こちらも一本取られました。すべて平仮名表記にしたのが成功していて、へのへのもへじではないが福笑いの眉・目・鼻・口が平仮名が踊っているようにも見えてくる。伊呂波歌が仮名文字の習字手本ということを踏まえればなかなかの技巧ともとれる。筆者には「歯にホヘと色歯にホヘと福笑ひ」と読めてしまうのは、歯の治療中ゆえか。
一月一日走れば街路伸びて白 四ツ谷龍
ランニングやジョギングを日課にしている人にとっては、盆も正月も関係ねぇ、とばかり(筆者には信じられないことだが)嬉々として走っている。脳内物質が分泌されるからとも言われるが、酒や煙草、最近ではゲーム中毒と同じだろうか。元旦、いつもより車も人も少ない道をいつものように走る。初空はきれいに晴れ渡り、だんだんと調子が出てきて、どこまでも走って行けそうな気がしてくる。俳句も体操競技と同じで着地が大事。最後を「白」で締めたところが、まっさらな一年の初めの日に相応しく実に上手いと感服。
第298号 2013年1月6日
■新年詠 2013 ≫読む
第299号 2013年1月13日
■鈴木牛後 蛇笑まじ 干支回文俳句12句 ≫読む
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