【週俳3月の俳句を読む】
にんじゃりばんばん
岡本雅哉
快進撃のきゃりーぱみゅぱみゅのニューシングル。《にんじゃりばんばん》とは何のことかと思ったら、きゃりーちゃんもわからないし、作者の中田ヤスタカにもわからない(参考インタビュー)。でもそれはステキなことです。《にんじゃりばんばん》、ものすごくキャッチーで、妻いわく、子どもたちにも大人気だそうです。
ちょっと思いついて、今回は音のきもちよさで俳句を選ばせていただき、書かせていただきました。
新延 拳 「我を呼ぶこゑ」
卒業子忘れものせしやうな気が 新延 拳
冒頭の《そつぎょうし》、卒業した子の意味だと思いますが、音だけ聞くと“卒業し”とあたかも自分が卒業したような気分になります。そういえば忘れものをしたような気がします。好きな子と学校をさぼって遊園地に行くこととか。
白木蓮の叫び尽くして暮れにけり 同
まず冒頭の《びゃくもくれん》のことばの連なり、大声で叫んでみたくなりますね。では叫んでみてください。……………………はい、びゃく・もく・れーん!と、リズムに乗って叫べましたね。某ゴルフ漫画の、チャー・シュー・メーン!も同じです。わらわらと木蓮の花の咲くようす、“叫び尽くして”という表現にはそうそれっ!と思わず膝をうちました。《もくれん》の語感のもつ、花そのまんまの感じも相乗効果を呼んでいます。
中田尚子 「風車」
我武者羅に羽繕つて春の鴨 中田尚子
《がむしゃら》という出だしの音、いいですね。池の水面を叩く音が聞こえ、羽毛の飛び散る様子が見えるようです。《羽繕(はねつくろ)って》、四字の中に7音が詰まっているため、忙しなさがさらに加速しています。我武者羅の“武者”と“羽”が響きあって、あたかも春の鴨が“羽”で飾られた鎧兜をまとった“武者“の佇まいを醸し出しています。
このようなディテールを盛り込んだ中田尚子さん、『にんじゃりばんばん』のPVのイメージも重なります。この曲の作者、中田ヤスタカが偽名を使って作っているのだと思います。シャキーン!
ちやんばらに少女が一人風光る 同
ほら。これきゃりーでしょ!まんまきゃりーぱみゅぱみゅでしょ!
ちゃんばらで風といっしょに刀が光っています。シャキーン!
やっぱ、ヤスタカが作ってる。
頑になる風車まはるほど 同
《かたくなに》の“かたく”と《かざぐるま》の“かざぐ”が響きあい、《かざぐるま》の“ま”と《まわるほど》の“ま”で加速する。この句は“頑になる”を用いたのが只者ではないと思います。
先に述べたとおり音の面でもすごいのですが、強い風が吹き、回れば回るほど首を振らないで安定する風車の性質を“頑になる”と一言で表すのは容易ではない。
やっぱりヤスタカだと思います。ヤスタカのしわざです。
杉山久子 「明日蒔く種」
春の鹿まつ毛に光粒をなし 杉山久子
《はる》と《まつ》、母音“あう”の響きあい、《まつげ》と《つぶ》の“つ”の踏韻がいいですね。
光がころころと、いまにも跳ねて飛び散るように思えます。
《しか》と《ひかり》の響きもぴかぴかとした明るさを与えています。
荒凧の墜ちて地を刺すガガガガガ 同上
《ガガガガガ》、音もかたちも凧が地面を引きずられている様子そのままです。
“地を刺す”という表現も、凶暴さを増していてとても良いですね。
振つてみる明日蒔く種の種袋 同上
《あすまくたねのたね》と“あ”音の繰り返しが心地よいリズムを生み、《ぶくろ》と丸く収まる感じが楽しいですね。
黒岩徳将 「切符」
弾き語る聴き手子猫と夕日かな 黒岩徳将
《ひき》と《きき》のキキと響く音、まさしく弦楽器。でも、キキって鳴ってしまうのはどちらかというとあまりじょうずじゃない弾き手の演奏、あ、だから子猫と夕日しか聴いていないんだ。なるほどね。
風船とガムは雲への切符なり 同
これは“と”が気になる。“と”は、“と”っちゃってもいいんじゃない?“と”の存在がかえって風船“と”ガムのあいだに距離をつくっちゃってるんじゃないのかな?ああもういっそのこと“風船ガム”にしたい。ぷーっと口から膨らましてみたい。
大穂照久 「叙景」
金網の合間から散る紅椿 大穂照久
《かなあ》みの《あ》い《まから》、とあ音の繰り返しが、金網のある空間の殺風景さを強調しています。そこに《べにつばき》。濁音の連続が、ぼでっとした椿の存在をこの上なく主張しています。おもわず口ずさみたくなります《べにつばき》。
建国記念日女子の真っただ中に 同
《けんこくきねん》と、しょっぱなから、か行の硬い音の連続。さぞやおカタイ女子なのでしょう。“女子の真っただ中に”建国された国とすると、それは日本ではない。中つ国でしょうか。それともナルニア王国でしょうか。ひょっとすると、有吉AKB共和国でしょうか、いやそれはない。もしかすると、単に一人暮らしを始めただけかもしれません。自分だけの建国記念日、大事にしていただきたいものですね。
第306号 2013年3月3日
■新延 拳 我を呼ぶこゑ 10句 ≫読む
■中田尚子 風車 10句 ≫読む
■杉山久子 明日蒔く種 10句 ≫読む
第307号 2013年3月10日
■黒岩徳将 切符 10句 ≫読む
第308号 2013年3月17日
■大穂照久 叙景 10句 ≫読む
2013-04-07
【週俳3月の俳句を読む】にんじゃりばんばん 岡本雅哉
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1 comments:
書いた記事に反応がありました。
http://togetter.com/li/485354
リアクションは、とてもうれしいです。
間違いは、あえて残しておきたいと思います。むしろ間違えるために書いているような気がします。
懲りずにまた書きたいと思います。
シャキーン!
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