2013-04-07

【週俳3月の俳句を読む】振ってみた 栗山 心


【週俳3月の俳句を読む】
振ってみた

栗山 心


春愁の掻玉スープぐるぐるす  杉山久子


日常的に料理をしている人も、そうでない人も、なんとなく鬱々として気分が乗らない時は、敢えてレシピ通りに真剣に料理をしてみる、というのも気分転換になったりするものだ。いつもは目分量でも、小さじ何杯、小麦粉何グラム、など理科の実験のようにやってみる。

卵を溶いて入れる、というだけの掻玉スープでも、某料理サイトによると、レシピはなんと145種類。卵の入れ方ひとつでも、「菜箸に伝わせて少しずつ流し入れる」「穴開きお玉を使う」「良く溶いた卵をそのまま入れる」など様々。卵だけのシンプルなものから、ニラ、三つ葉、わかめ、きのこ等など、トッピングも豊富だ。水溶き片栗粉でとろみをつければ、冷めにくく、身体の中から温まる。

さて、冷蔵庫の中身と相談し、料理を始めよう。たとえ失敗したところで、掻玉スープ。たくさんの材料を使う大層な料理と違って、ダメージは少ない。ぐるぐる掻き混ぜて、出来たてをふうふう飲み干してしまおう。その時、ほんの少しだけ、心が軽くなっているかもしれない。


振つてみる明日蒔く種の種袋  杉山久子

先日、本屋で文庫本を買ったら、何かのキャンペーンらしくひまわりの種をプレゼントされた。花言葉は「あなたすばらしい」と、やや気恥ずかしい。春蒔きの1年草(この言葉も初耳で、調べてみた。種から花が咲いて枯れるまで、1年以内の植物のことらしい)で、ちょうど今の時期蒔けば、夏に開花する。園芸とは無縁の生活で、種袋を手に取ることもなく、物珍しさに、やはり私も「振つてみた」。カサカサパラパラと頼りない音。これがあの「ひまわり」となって花を咲かせるのか、不思議な感じだ。明日は天気も良いようだし、庭に片隅に蒔いてみようかな。春愁を脱出して、気持ちは夏へと向かっている。


第306号 2013年3月3日
新延 拳 我を呼ぶこゑ 10句 ≫読む
中田尚子 風車 10句 ≫読む
杉山久子 明日蒔く種 10句 ≫読む

第307号 2013年3月10日
黒岩徳将 切符 10句 ≫読む

第308号 2013年3月17日
大穂照久 叙景 10句 ≫読む



0 comments: