【週俳3月の俳句を読む】
春さまざま
広渡敬雄
新延 拳「我を呼ぶこゑ」
挨拶のあとの重き間春遅々と 新延 拳
目礼のあとの黙殺白扇子 鷹羽狩行
眉目秀麗ながら凄味のある女性とは異なり、この人物には、どことなくやるせない中年男性がイメージされる。
会合で出会った人物との一通りの当り障りのない会話の後、ばつの悪い気まずい沈黙の空気と時間。
室外に溢れる新緑と囀りの明るい景との対比も感じられる。
暮れなずむ春の夕べの至福の時間さえ、何となく春愁にもつながる心境である。
新入生、新入社員の「五月病」以上に、この時期の中年はもっと深く憂鬱なのかも知れない。
中田尚子「風車」
麗らかや水に飛び込みさうな松 中田尚子
大名庭園の池やお堀端の松、あるいは海岸の岩壁の松。
色々な松がイメージされるが、その松が飛び込みそうな形をしているのだ。
つまり、大きく曲り、枝振りが水に覆いかぶさるような景であろうか。
松の枝はいかにも筋骨隆々としている感もする。
水も温み、玲瓏とした春たけなわのひと時。
作者自身も手を水に浸し、春爛漫を満喫しているのかも知れない。
何も言ってはいないが、松の新芽が伸び、緑が際立ち始め、その匂いも作者の嗅覚にさらに春爛漫を実感させる。
大穂照久「叙景」
建国記念日女子の真っただ中に 大穂照久
「建国記念日」は、戦前の紀元節(2月11日)が昭和42年(1967年)に名を変えて始まった。
戦前の軍国主義の復活につながるとの野党の反対で正式の名称は「建国記念の日」。
制定直後は、反対の意思表示で当日(休校日)は、登校して自主授業をする教師、学生が多かったが、いつのまにか、貴重な二月の祭日になった感がする。
それから五十年近くがたち、凛々しかった青年も最近では頓に草食系が増えた。
相反して、女性は生き生きと活発に自身の道を切り開き、肉食系も見られ、女子会なる集まりも盛んである。
作者は昭和61年(1986年)生れ。
街中か何かのイベントで、予想もしなかた女子ばかりの場面に遭遇した。
この当惑した気後れした顏は、昨今の時代を反映している感がする。
第306号 2013年3月3日
■新延 拳 我を呼ぶこゑ 10句 ≫読む
■中田尚子 風車 10句 ≫読む
■杉山久子 明日蒔く種 10句 ≫読む
第307号 2013年3月10日
■黒岩徳将 切符 10句 ≫読む
第308号 2013年3月17日
■大穂照久 叙景 10句 ≫読む
2013-04-07
【週俳3月の俳句を読む】春さまざま 広渡敬雄
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