【週俳3月の俳句を読む】
少し疲れて
岡田由季
白木蓮の叫び尽くして暮れにけり 新延 拳
今まで白木蓮を見て叫んでいると感じたことはなかったけれど、この句を読んで、なるほどあの上を向く咲き方は声をあげているのかもしれないと思った。けれどこの句はきっとそのようなシンプルな見立ての句ではないだろう。叫び「尽くす」という状況には、かなりストレスフルなものを感じる。暮れるまで叫びつくすのは、いくら叫んでも誰にも振り向いてもらえないか、あるいは叫んでいる本人の気が触れているかだ。私のような鈍感な人間は白木蓮や、その他もろもろの物の密かな叫びなどには全く気がつかず通りすぎてしまう。白木蓮の花がいつも少し疲れて見えるのはそのせいかもしれない。
麗らかや水に飛び込みさうな松 中田尚子
いい大人が、水際に立っている松の枝振りを見て、なんだか飛び込みでもしそうな形だなぁ、と思ったとしても、通常はそれを誰かに伝えようとすることもなく、次の瞬間には自分でも忘れてしまうだろう。それはささやかで、やや幼く、見たままの感想でしかない。けれど俳句作者は形式にのせそれを作品にしてしまう。読んだ者にはいかにも春らしいのんびりとした空気感が伝わり、愉しい気分になる。俳句ってずるいなぁと思うのだ。
雛人形彼の言ふとほりに飾る 同
少し面倒くさい人なのである。男のくせに雛人形の飾り方にまで一家言ある。しかも自分では手を出さず人に飾らせる。おそらく飾っているのは女性で、けれど嬉しそう。はいはい、わかりました、この並べ順ね、と、いそいそと飾る。何をしても嬉しい楽しい時期がある。貴重なひとときである。
荒凧の墜ちて地を刺すガガガガガ 杉山久子
割合に淡いトーンでまとめられた「明日の種」の10句のなかで、この「ガガガガガ」は目だっている。この光景は誰しも目にしたことがあると思うが、何か話をしていたり考え事をしていたとしても一瞬は途切れて、凧の「ガガガガガ」に気を取られるだろう。そういう時間の瞬断のような役割をこの10句のなかでも担っているように思う。
2013-04-14
【週俳3月の俳句を読む】少し疲れて 岡田由季
■新延 拳 我を呼ぶこゑ 10句 ≫読む
■中田尚子 風車 10句 ≫読む
■杉山久子 明日蒔く種 10句 ≫読む
■黒岩徳将 切符 10句 ≫読む
■大穂照久 叙景 10句 ≫読む
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