【週俳4月の俳句を読む】
入れものが無い両手でつくる
嵯峨根鈴子
外山一機「上毛かるたのうた」
あ…浅間のいたずら鬼の押し出し
お椀の舟に箸の櫂
御旗立てむは
鬼遊び 外山一機
(中略)
え…縁起達磨の少林山
だるまのお首は
何見てはねる
十五夜お月さん見てはねる 外山一機
(中略)
く…草津よいとこ薬の温泉
すがめおとめの薬効は
裏のはたけで
ぽちがなく 外山一機
(中略)
は…花山公園つつじの名所
わたしの人形
よい人形
蝶よ花よと産み分けて 外山一樹
(中略)
ま…繭と生糸は日本一
日本一の口三味線も
鳴いて血を吐く
ほととぎす 外山一樹
「上毛かるた」は群馬県の名物、歴史などを教えるために1947年に作られ、現在も冬には小学生を中心に地域ごとにカルタ大会が行われているそうだ。内容もその解説もP・Cで直ぐに見ることができる。
「あ・・・浅間のいたずら鬼の押し出し」がまず在ってそれに「お椀の舟に箸の櫂」という誰でも知っている一寸法師の歌を付け、「京へはるばる上りゆく」と続くべきところを「御旗立てむは 鬼遊び」に転じている。形としてはカルタ+俗謡+創作ということになる。中7下5だけが作者の創作とは言え、上毛カルタを選び、それに一寸法師の歌をくっ付けたということも、作者の創作と言えるのではなかろうか。
さてこの「御旗立てむ」というのは一寸法師も同じ志を抱いて京の都へ上って行ったように、今も昔も錦の御旗を立てようと足掻くのは鬼ごっこのようなものだということか。
「鬼遊び」とは鬼ごっこのことだと思われるが、昨今では教育の実践方法としても注目されており、読者としては作者の意図が肯定にあるのか否定に傾いているのかが掴み難いところであり悩ましい。ともあれ鬼ごっことは全員が鬼になって終わる。
上毛カルタのどの歌にも、毛野国と呼ばれていた昔があり、それぞれ上野(群馬)、下野(栃木)とに分けられたという歴史認識があっての歌であり、作者はそれらを一句に取り込んで、批判も含めててんこ盛りにしたうえで、もう一度入れ子のように「上毛カルタ」の箱へと戻しているのだ。豪華な箱に仕上がっている。
575の枠を目いっぱいに使うことで俳句形式からの恩恵を受けるか、俳句形式を破ることでその恩恵をうけるか、どちらにしても俳句形式の恩恵に与って俳句を書いているのだが、形式を破るという方法は自覚なしには成しえない方法であろう。無自覚に俳句形式を好き勝手に使い回してきてしまった私にとって、この強固な俳句形式を破るということには、抵抗も大きいが魅力も大きいのだ。
俳句といういれものを十全に生かすに有効な方法とは、案外「入れものが無い両手でつくる」と自覚するところに始まるのではと思わされた句群であった。嗚呼、だから「あいうえお」だったのか?乗せられたか?かも知れないが、その自覚はある。
第311号 2013年4月7日
■外山一機 上毛かるたのうた ≫読む
第312号 2013年4月14日
■豊里友行 島を漕ぐ ≫読む
■西村麒麟 でれでれ ≫読む
第313号2013年4月21日
■渡辺竜樹 鯉幟 ≫読む
第314号 2013年4月28日
■篠崎央子 日課 ≫読む
■松尾清隆 休みの日 ≫読む
2013-05-12
【週俳4月の俳句を読む】入れものが無い両手でつくる 嵯峨根鈴子
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