林田紀音夫全句集拾読 269
野口 裕
滝落ちてやがて平らに水急ぐ
平成二年、未発表句。「て」の繰り返しがやや耳にうるさく響くのを差し引いても、面白い着眼点。滝に背を向け下流を見つめる視線には、滝と、かつての苦しかった時代を重ね合わせる思いが潜んでいそうだ。下五の措辞がそうした感想をさそう。
もし、「滝」が季語でなければ、紀音夫好みの素材になり得たのではないか。そんな想像もこの句を読むと湧き上がってくる。
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河口に近く白昼の人影を絶つ
枇杷熟れて白昼のひと行き過ぎ
平成二年、未発表句。白昼二句。無季の句は人影に焦点を当て、有季の句は季語に焦点を譲るためひとの景はあっさりと仕上げる。無季の句の次に有季が並ぶ点は、推敲過程の行きつ戻りつと言ったところか。
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2013-06-09
林田紀音夫全句集拾読 269 野口 裕
Posted by wh at 0:03
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