【週俳6月の俳句を読む】
外角低めの3句
榎本 享
土踏まずなきペンギンの涼しさよ 飯田冬眞
言われてみれば、ぺたぺた歩くペンギンのあの足に土踏まずはないだろう。
白黒の、剽軽な姿の印象が強いのに、その足からこんな発想が生まれるとは……
「涼しさよ」という下五を読み終わった途端、一羽のペンギンのその足元だけが
鮮やかに浮かんできて、してやられた感じ。この「涼しさ」、好きです。
咆哮を忘れし虎や合歓の花 同
動物園で虎やライオンを見たら、誰しも草原を全速力で駆けている雄姿を思い、檻の中で所在なく人間に見られている境遇に、心を痛めたことがあるだろう。
「咆哮を忘れし」の表現が全て。この言葉が改めて虎に命を吹き込み、読み手を揺さぶる。
「合歓の花」は、静かな平和の象徴。しかし、虎は「平和」なんて好きじゃないんだ。
弱肉強食の野生の中で、吠えながら、駆けながら、今日を生きていたい筈なのだ。
隅つこが好きな金魚と暮らしけり 同
いるいる、そんな金魚! 水槽は広くて大きいし、水がたっぷり入っていて、水草も揺らいでいるのに、餌を貰うとき以外はいつだって隅っこにいる金魚が……お前さんはよほど隅っこが好きなんだね。
「暮らしけり」と収めた言葉から、作者の朝夕の挨拶、そして休日のありよう、窓に映る緑などへと、想像が広がる。少ししか述べない作品だけの持つ、シンプルさが心地よい。
3句共、生き物に対する愛と親しみから生まれた作品で、言葉に無理をさせていない点に好感を持った。しかも対象の掴み方や表現が新鮮である。この作者の、動物俳句シリーズをもっと読みたくなってきている。
第319号2013年6月2日
■閒村俊一 しろはちす 10句 ≫読む
第320号 2013年6月9日
■石井薔子 ワッフル売 10句 ≫読む
第321号 2013年6月16日
■秦 夕美 夢のゆめ 10句 ≫読む
第322号 2013年6月23日
■永末恵子 するすると 10句 ≫読む
第323号 2013年6月30日
■飯田冬眞 外角低め 10句 ≫読む
2013-07-07
【週俳6月の俳句を読む】外角低めの3句 榎本享
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