2013-08-18

【週俳7月の俳句を読む】夜を分かちあう 佐川盟子

【週俳7月の俳句を読む】
夜を分かちあう

佐川盟子


わが肘を伝ひ歩める蠅涼し  岸本尚毅

この句に至るまでに作者は、鬼灯市の晩を時間を追って詠んでいる。夏至から二十日ほどたち、夕暮れが少し早くなり、電車を降りてそぞろ歩いているうちにもう暗くなる、そんな時期だ。屋台に取り付けられた燈に照らされて、色づいた鉢植えのほおづきが、つやつやとして美しい。まだ青いさやもぱりぱりと尖って、いきいきとしている。ところが、この鬼灯市はすこし妖しげだ。抑制した書き方が逆に想像をたくましくさせる。売り子のひとりは狐かもしれない。かき氷売りは煙草をくゆらせていて商売っ気がないし、帰りにすれ違ったちょび髭の若い男も気になる。そして今まで目に映っていた鬼灯市は、背を向けた途端に消えてしまうのだ。ともあれ、この晩のおわりに、帰宅して窓を開け、部屋に風を入れてくつろいでいる作者がいる。半袖シャツの剝き出しの腕に、蠅がとまっているにもかかわらず、振り払うこともなく、落ち着き払っている。小さな生きものと夜を分かちあう涼しさを感じて。


第324号 2013年7月7日
マイマイ ハッピーアイスクリーム 10句 ≫読む

第325号 2013年7月14日
小野富美子 亜流 10句 ≫読む
岸本尚毅 ちよび髭 10句 ≫読む

第326号 2013年7月21日
藤 幹子 やまをり線 10句 ≫読む
ぺぺ女 遠 泳 11句 ≫読む

第327号2013年7月28日
鳥居真里子 玉虫色 10句 ≫読む
ことり わが舟 10句 ≫読む

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