【週俳7月の俳句を読む】
夜を分かちあう
佐川盟子
わが肘を伝ひ歩める蠅涼し 岸本尚毅
この句に至るまでに作者は、鬼灯市の晩を時間を追って詠んでいる。夏至から二十日ほどたち、夕暮れが少し早くなり、電車を降りてそぞろ歩いているうちにもう暗くなる、そんな時期だ。屋台に取り付けられた燈に照らされて、色づいた鉢植えのほおづきが、つやつやとして美しい。まだ青いさやもぱりぱりと尖って、いきいきとしている。ところが、この鬼灯市はすこし妖しげだ。抑制した書き方が逆に想像をたくましくさせる。売り子のひとりは狐かもしれない。かき氷売りは煙草をくゆらせていて商売っ気がないし、帰りにすれ違ったちょび髭の若い男も気になる。そして今まで目に映っていた鬼灯市は、背を向けた途端に消えてしまうのだ。ともあれ、この晩のおわりに、帰宅して窓を開け、部屋に風を入れてくつろいでいる作者がいる。半袖シャツの剝き出しの腕に、蠅がとまっているにもかかわらず、振り払うこともなく、落ち着き払っている。小さな生きものと夜を分かちあう涼しさを感じて。
第324号 2013年7月7日
■マイマイ ハッピーアイスクリーム 10句 ≫読む
第325号 2013年7月14日
■小野富美子 亜流 10句 ≫読む
■岸本尚毅 ちよび髭 10句 ≫読む
第326号 2013年7月21日
■藤 幹子 やまをり線 10句 ≫読む
■ぺぺ女 遠 泳 11句 ≫読む
第327号2013年7月28日
■鳥居真里子 玉虫色 10句 ≫読む
■ことり わが舟 10句 ≫読む
■マイマイ ハッピーアイスクリーム 10句 ≫読む
第325号 2013年7月14日
■小野富美子 亜流 10句 ≫読む
■岸本尚毅 ちよび髭 10句 ≫読む
第326号 2013年7月21日
■藤 幹子 やまをり線 10句 ≫読む
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第327号2013年7月28日
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