【週俳7月の俳句を読む】
ひっそりと死んでいく虹のこと
田中 槐
夕薄暑突き出す腕のトロンボーン マイマイ
金管楽器のなかでも、演奏姿に見蕩れてしまうのはなんといってもトロンボーンだ。目分量と経験値で音階を操る右手、ぐんと腕が突き出るときのかっこよさ。この句では「夕薄暑」とあるから、河原のようなところで練習している姿だろうか。まだそんなに上手ではないのかな。いずれにせよ、トロンボーンという楽器を「突き出す腕」で捉えたところが素晴らしい。
わが肘を伝ひ歩める蠅涼し 岸本尚毅
この蠅は、コバエとかではなく、ある程度の大きさの蠅だろう。大きいといっても、蠅にはあまり重さがない。肘を歩いていることには、微かな脚の感触で気づき、作者はそれを眺めている。自分の腕の上を歩いているのに、重さを感じられないことが「涼し」につながっているのか。蝿が腕を這っているのは不愉快なことに違いないから、その涼しさもまた、たぶんほんの僅かな時間だろう。僅かな時間のなかの小さな光景が切り取られている。
簡単な絶賛を得て虹の死ぬ ぺぺ女
虹の死、ということを考えたことがないからびっくりした。たしかに、虹は、見つけたひとにとっては僥倖で、歓声などあげられるかもしれないけれど、まあそれだって「簡単な絶賛」に過ぎないし、それこそあっという間に消えていく運命だ。だとしても、絶賛を得られた虹は、虹界(そんなものはないが)ではしあわせな部類であって、ほとんどの虹が誰にも気づかれずひっそりと死んでいくにちがいない。そんな、簡単な絶賛さえ得られない多くの虹の死に思いを馳せた。
瞑れば玫瑰浜木綿浜防風 ことり
この句は、とても個人的な理由で好きになった句。ことりさんがどこにお住まいなのか知らないが、海に近い故郷をお持ちなのだろうと思う。わたしも浜松の中田島という砂丘の近くで育ち、名前に「ハマ」のつく植物と慣れ親しんでいた。目をつむれば、そういう植物たちが容易に目に浮かぶ。ハマナスやハマボウフウの漢字表記のちょっとした不穏さも、魅力的だ。
■マイマイ ハッピーアイスクリーム 10句 ≫読む
第325号 2013年7月14日
■小野富美子 亜流 10句 ≫読む
■岸本尚毅 ちよび髭 10句 ≫読む
第326号 2013年7月21日
■藤 幹子 やまをり線 10句 ≫読む
■ぺぺ女 遠 泳 11句 ≫読む
第327号2013年7月28日
■鳥居真里子 玉虫色 10句 ≫読む
■ことり わが舟 10句 ≫読む
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