2013-10-06

林田紀音夫全句集拾読286 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
286

野口 裕




雨粒の薔薇にとどまるひかりあり

薔薇ひらく夕べ子の声天に消え

薔薇を描く絵具の色をふんだんに

風すこし出て紅白に薔薇ひらく

花こぼす薔薇の日なたに出て憐れ


平成四年、未発表句。四百四十五頁下段から次のページ上段に断続的に薔薇の五句あり。発表句は平成六年海程に、「薔薇は花つけて棘もつ幾歳月」とあるが、花曜には見当たらない。三句目がやや異色と思えるが、句に楽しげな表情を与えることは発表句ではやりにくいか。五句目の延長線上で、発表句としたと考えられる。

 

馬齢重ねるたまさかカンナひるがえり

平成四年、未発表句。老いの感慨プラス季語。このような句柄に上七音は常套を破る。重たげに垂れているはずのカンナがひるがえるのは、ちょっとうれしい出来事か。

前掲の薔薇の句で、花曜発表句は見当たらないと書いたが、平成七年に「老眼の何処より薔薇の棘消える」があった。足かけ三年の推敲期間ということになる。



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