林田紀音夫全句集拾読 289
野口 裕
誘われて仰ぐ夕空妻指す方
平成四年、未発表句。大方は感嘆詞を発しながらの動作だろう。その行為や、共感に日常的な深い意味はない。ないからこそ日常生活でのアクセント になり得る。アウシュビッツに収容されて生き延びたのは、夕焼け空に無感動になった人ではなく、感動する感性を保持した人たちだったという『夜と霧』(フ ランクル)の一節なども思い出される。季のないこともこの場合は有効に働く。
砂時計砂にまみれて逝く日あり
平成四年、未発表句。砂時計が無為に過ぎてゆく時間を連想させるのに対して、「砂にまみれて」が懸命に生き、ようやく過ぎ去った時を振り返る余裕を得たことを示唆する。句の中に小さな逆転が潜んでいる。
俎板の乾くまで蝉軒にいる
平成四年、未発表句。雌蝉か。
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2013-10-27
林田紀音夫全句集拾読 289 野口 裕
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