林田紀音夫全句集拾読 296
野口 裕
人の死に電工ニュース慌し
平成五年、未発表句。電光ニュースが普通だろうが、エンジニアの紀音夫の中では電工ニュースなのかも知れない。訃報を伝えて文字が流れ去る。内部の電気仕掛けもまた慌ただしい。
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スリッパ散乱きょう八月も終り
平成五年、未発表句。荒っぽい措辞だが、句の光景とよく合っている。人の集まるところで見かけたのだろう。紀音夫ならば句会か、はたまた病院か。
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起き上がる立つまでの苦に月が射す
平成五年、未発表句。「起き上がり」としていないところに、ひとつひとつの動作に身体の不調を確認しつつ行わねばならない病苦を潜ませる。「苦」はその意味で、手拍子で出てしまった念押しではある。第一句集の「月になまめき自殺可能のレール走る」の頃は、思えば元気であった。
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顔前を横切って照り蜘蛛の糸
平成五年、未発表句。顔前は、眼前あるいは顔先の誤字であろう。見えなかった蜘蛛の糸が、歩みを進めるうちに反射の加減でいきなり見えてくることはあり得る。目前でそれが起これば少しは驚いてしまう。一瞬の出来事を巧みにとらえる。
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2013-12-22
林田紀音夫全句集拾読 296 野口裕
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