2013-12-01

SUGAR&SALT 03  縁側を横歩きして虹を見る 三橋敏雄 佐藤文香

SUGAR&SALT 03 
縁側を横歩きして虹を見る 三橋敏雄

佐藤文香

「里」2010年6月号より転載

自分が25歳になるので、敏雄(本当は敏雄さんと呼びたい)が25歳のときは何をしていたのだろうと、略歴を見てみた。
1945年(昭和20年)
八月二日、八王子市街空襲に遭い、留守宅焼亡。敗戦に伴い、九月に自転車一台を確保、これに乗って横須賀より八王子へ復員。(以下略)
そうか、私は敏雄と65歳違いか。戦争が終わったのは今から65年前で、そのときに25歳だったのか。

戦争、やっぱり本当だったのか。どんな自転車に乗って帰ったんだろう。何食べたのかな。横須賀から八王子までは、70kmくらいみたいだ。その後、阿部青鞋、渡辺白泉と再会したらしい。

そうか、会うのは、生きてるから、か。翌年、西東三鬼とも4年ぶりに再会している。『青の中』中の作品篇「先の鴉」は、その昭和21年から22年のもの。

梟の顔あげてゐる夕かな   三橋敏雄
箒木に住み古りにけりかたつむり
春雨を仰いでゐるや帽のまま
掛稲をうごかしてゐるかくれんばう

胸を刺すような凄まじさや重々しさはない。夕方の雨上がりの雲間からひそかに漏れる弱い光のような、さみしい明るさ。ゆるやかな動きとその印象が、読むたびに少しずつ像になってゆく。

しかし、梟にも、かたつむりにも、はっきりとした輪郭は得られない。帽子のまま雨の中にいるのは、掛稲の影に隠れているのは、自分でも誰かでもないような気がする。遠いところを見ているようで、焦点が合わない。

もしかしたらこれが、終戦から少し経った当時の気分なのかもしれない、と考え込んだ。

終点の線路がふつと無いところ   渡辺白泉
眼の丸き子供となりて森の中
変な酒飲んで県道から墜ちぬ
柿かぢられてその木の下にすててあり

昭和22年、渡辺白泉は敏雄より7歳上の34歳。そのとき西東三鬼は47歳。1900年生まれだから、三鬼は私より85歳上か。

広島や卵食ふ時口ひらく   西東三鬼

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