【週俳12月の俳句を読む】
グラビティ
岡野泰輔
暮に評判の映画『ゼロ・グラビティ』を観た。IMAX、3D、サラウンドの巨大映像音響環境のど真ん中に身をおいた。サーカスである、シルクドソレイユを空中ブランコに乗って舞台の真ん中で観る感じ。主演は当初アンジェリーナ・ジョリー、マリオン・コティアール、スカーレット・ヨハンソン、ナタリー・ポートマン、などを経由してサンドラ・ブロックにたどり着いたようだ。この映画の出来をみれば、みなサンドラに嫉妬しているだろう。個人的には『ブラックスワン』のニューロティックな演技が印象に残ったナタリー・ポートマンでも観てみたかったが。
凍星やミルク垂らしたままの皿 高崎義邦
映画の余韻を引きずったままの粗雑な頭で読めば、この句など美しくも重力と宇宙創成のアレゴリーと読める。ミルクと皿とくれば「覆水盆に返らず」も想起されるが、むしろ皿のミルクにモノを落下させてできるミルククラウンが美しい。この皿は地球であり、世界であり、ミルクは地上600kmから眺めた恵みの海であってもよいし、地球に注ぐ銀河(ミルキーウェイ)であってもよい。
もちろん真っ白な磁器の皿を飽かず眺める小椋佳のような静謐さもありではあるが、もうそこには私、戻りにくい。いずれにしても凍星とミルクの相性抜群。他に「着ぶくれてデモ隊一層非力なる」が妙な実感。
ゴミ箱を空にして天の川かな 五島高資
映画の余韻がまだつづく。映画では宇宙のゴミ(ロシアの衛星の破片)がサンドラを襲うのである。宇宙の塵あくたがものすごい勢いで遠隔力(重力)に引っぱられ全の空虚が現れる。はてしない暗黒の・・・(このへん文系ですのでいいかげん)「天の川ここには何もなかりけり」冨田拓也も思い出す。
シリウスや人を吸い込む東口 五島高資
なにかを湧出させるというより、虚無化する、吸い込む、といわれれば納得する冬の夜空。星の目、神の目で見れば次々と東口に吸い込まれる人達はちっぽけで、愛しい。光年単位の星の消長と人の営みの対比は誰しも小学生ぐらいに胸をつかまれた覚えがあるだろう。映画ではサンドラがジョージが虚空に吸い込まれるように……。
落椿夜は首を持ちあげて 柿本多映
たしかに夜は何かが起る。我々は重力の奴隷にすぎないが、この庭の椿は渾身の力で諍う。赤い椿に違いない、それも深い赤。どこかに火が見える。それにしても椿とはつくづく夜のものであるとの思いを深くした。サンドラも諍い立ち上がる。
第345号 2013年12月1日
■石 寒太 アンパンマン家族 10句 ≫読む
■高崎義邦 冬 10句 ≫読む
第346号 2013年12月8日
■五島高資 シリウス 10句 ≫読む
第347号 2013年12月15日
■柿本多映 尿せむ 10句 ≫読む
■小津夜景 ほんのささやかな喪失を旅するディスクール 20句 ≫読む
第348号 2013年12月22日
■奥坂まや 海 原 10句 ≫読む
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2014-01-12
【週俳12月の俳句を読む】グラビティ 岡野泰輔
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