2014-01-12

林田紀音夫全句集拾読 298 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
298

野口 裕




団栗をてのひらに見る沖は照り

平成五年、未発表句。かつての紀音夫なら、下五で回想・追想などに添う言葉を用意するところではある。「沖」にもその要素はあるが、希薄になっている。句は触覚を伴う近景から遠景への自然な推移を示す。


除夜の湯に新しいこと何もなく


平成五年、未発表句。平成五年最後の句になる。淡々とした心境句。


松黒く月夜の軋み身に及ぶ

病棟の消灯の刻雪来るように


平成六年、未発表句。新年になってからの四句目と五句目。五句目に、「国立循環器センター入院」の詞書。詞書から判断するに、四句目は身体の異変を告げている。松の黒さ、突然やってくる雪ぐもり、ともに暗澹とした心境を覗かせる。

 

突然の鏡に涙涸らした顔

平成六年、未発表句。前後の句から入院中の句と判断できる。鏡に闘病に疲れた己の顔。k音の連続が自嘲めく。

 

夜景眼にまだ病人の眠れぬ刻

平成六年、未発表句。病院の消灯が早く、眠れぬままに夜景を見て過ごす、ということはありそうだ。素直な句。四季と無縁の病棟にあれば、無季の句もまた自然と生じる。
 下世話な話だが、六人部屋や四人部屋で夜景が見えるのは、幸運の部類に入る。少々、値は張るが、一人部屋ないしは二人部屋だったか。

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