【週俳2月の俳句を読む】
トイレットペーパーの使い方
石原ユキオ
瀬戸正洋氏の俳句を読むと脳内にやくざ映画のテーマが流れ始める。
『俳句と雑文 B』でまとまった数の瀬戸正洋作品に触れて以来、そんな現象に悩まされている。
パナマ帽義理人情を守りけり
復活祭徒党を組んでゐたりけり
新涼のもぬけの殻の事務所かな
拳銃を撃つや春月落つこちさう
サンダルと人とプールに浮びけり
(瀬戸正洋『俳句と雑文 B』より)
いかがだろうか。
パナマ帽をかぶった田宮二郎が着流しの勝新太郎にもたれかかり、
ムショ帰りの松方弘樹が親分子分に労われながらベンツに乗り込み、
誰もいない組事務所で菅原文太が途方に暮れ、
ものすごい引きの画でビートたけしが拳銃を撃つと、
次のカットで死体となってプールに浮かんでいる中野英雄。
そういった映像がみなさんの頭の中にも浮かんでくるはずだ。
しかし本来、俳句を読むときは作者名に左右されず、まっさらな気持ちで一句一句と向き合っていくべきである。
瀬戸正洋さんだからといって、いつもいつもやくざ映画みたいな俳句を書くとは限らない。
よし、新鮮な気持ちで読もう。
そう思って「週刊俳句」第356号掲載の瀬戸正洋作品「軽薄考」を開いた。
ジャララーンッ! ジャララーンッ!!
はい、駄目でした。
やくざ妄想が止まりません。
寄居虫やめくら滅法てふ手もある
やどかりのもがき苦しむような動きを見ながら、めくら滅法やってみたらなんとかなるのではないかと考えたのだろう。おそらく対立組織を襲撃する話である。めくら滅法撃ちまくって一般市民に被害が及ぶのではないか。心配だ。
美熟女に手を握られてゐる遅日
「美熟女」という言葉の週刊誌的な俗っぽさがいい。流行語としてすぐに消えていきそうな「美魔女」より普遍的なところもいい。暮れかねる春の夕方、ベテランホステスにぎゅっと手を握られて寿司屋へ向かう。手も財布も情も一緒くたに握られているという諦念が漂っている。
駐在さんの顔殿様蛙と同じ顔
「駐在さん」のまじめくさった顔が思い浮かぶ。カエルのように目をぱっちり開けて無表情。ちょっと偉そう。「殿様蛙」にユーモラスな雰囲気があるからか、馬鹿にしながらも親近感を持っているように感じられる。
(ところで駐在所はいまも現役で存在するのに『駐在さん』という響きが懐かしいもののように思えるのはなぜだろう。金田一耕助シリーズのイメージが強いからかもしれない)
商人や革の手袋革かばん
非合法的な火器を取り扱う商人ではないだろうか。
狡賢いボス猿狡賢い春風
これは親分の悪口に違いない。「仁義なき戦い」で言うと狡賢いボス猿が山守組組長山守義雄(金子信雄)。ボス猿にこびへつらいながら吹き回る狡賢い春風が槇原政吉(田中邦衛)だ。『俳句と雑文 B』では槇原的な人物を見つけることができなかったので、ここで読めて嬉しい。
鳥曇りトイレットペーパー三個抱へ
西原天気さん曰く"トイレットペーパーを抱えるに「3個」という数は、空前絶後の中途半端感"。
なぜ三個か。
きっと必要に迫られて手近にあったトイレットペーパーを咄嗟につかんだらたまたま三個で、それを抱えて走ったのだ。
というわけで、どういう状況か想像して描いてみました。ご覧ください。
第354号 2014年2月2日
■内藤独楽 混 沌 10句 ≫読む
第355号2014年2月9日
■原 知子 お三時 10句 ≫読む
■加藤水名 斑模様 10句 ≫読む
第356号 2014年2月16日
■瀬戸正洋 軽薄考 10句 ≫読む
第357号 2014年2月23日
■広渡敬雄 ペリット 10句 ≫読む
■内村恭子 ケセラセラ 10句 ≫読む
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