【週俳2月の俳句を読む】
ふたたび「大人の俳句」!
馬場龍吉
第53回俳人協会賞の選評において大石悦子氏の句集『有情』に触れられたときに、雅語の遣い方、句風において独自の境地を切り開いた「大人の俳句」と評されていた。
まさしく「大人の俳句」が求められている時代に入っているのは間違いないようだ。
混沌の欠片たとえば冬銀河 内藤独楽
硬い語句の多用が見られる作者である。だからといって硬質な俳句とは、また違うようである。身のまわりに蠢くさまざまな混沌は距離を保っていてまるで銀河のように存在しているということだろうか。何かマスク越しに話されているようで声音が直接聞こえるような作品を見せていただきたいものだ。
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遠縁を訪ねてきたる桜貝 原 知子
異体字が紛れておりぬ春の闇
棉の糸一本ほどの繋がりの縁ということだろうか。田舎はともかく都会では、親戚といっても希薄な縁には違いない。そのかすかな縁と桜貝のひ弱な桃色の硬さの配合が活きている。二句目、編集作業をしている人にはわかる春の闇である。
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直角が好きで二月の空仰ぐ 加藤水名
馬鹿と言ふと本気で怒る春炬燵
1句目、ビル街の直線を通した都会の春の青空を仰いでいるように思う。硝子のようなビルの壁面に映っているかもしれない。春の空は取り分け明るい。
2句目、炬燵がホントウに怒ったらどうしよう。獅子舞の獅子頭のようにぱくぱく人間を食いだしたらどうしよう(笑)。害はないから楽しい春炬燵である。
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狡賢いボス猿狡賢い春風 瀬戸正洋
下五までの展開が面白い。キーワードは「狡賢い」なのだが、狡賢い春風は予想だにしない面白さだ。しかしその他は作者は面白がっているのかもしれないが、筆者には読み取れなかった。
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開拓の蹄鉄標本日脚伸ぶ 広渡敬雄
知床は神(カムイ)の屏風雪重ね
蝦夷鹿の食痕の樹の根開けかな
雪撥ねの笹青空を打ちにけり
掲句のどれを取ってもしっかりとした俳句である。取材が功を成した作品。開拓時代の蹄鉄はすり減ったり歪んだりしているのだろうか? いるだろう。春日の光が癒してくれているだろう。
4句目、「青空を打ちにけり」がとくに上手いところ。
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ケセラセラ立夏の雨の嬉しくて 内村恭子
黒あげは道は乾いてをりにけり
聖五月ケニヤの空を早送り
1句目、黒澤映画の「八月の狂詩曲」の雨を走り抜けるシーンを思い出した。夏の雨は明るい。ケセラセラ=ポジティブ思考が明るい。
2句目、景色は乾いていくが、黒揚羽は湿度の塊として羽搏きながら生きている。黒揚羽を目で追っている作者も水分の塊として生きている。生あるものは濡れている。
3句目、ビデオかDVDの鑑賞だろうか。春真っ盛りに常夏の「ケニヤの空を早送り」がいい。
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さて、ところで「大人の俳句」はあっただろうか。
第354号 2014年2月2日
■内藤独楽 混 沌 10句 ≫読む
第355号2014年2月9日
■原 知子 お三時 10句 ≫読む
■加藤水名 斑模様 10句 ≫読む
第356号 2014年2月16日
■瀬戸正洋 軽薄考 10句 ≫読む
第357号 2014年2月23日
■広渡敬雄 ペリット 10句 ≫読む
■内村恭子 ケセラセラ 10句 ≫読む
■内藤独楽 混 沌 10句 ≫読む
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