【週俳4月の俳句を読む】
春の焚火を七つ見て
菊田一平
土よりもすこしあかるく雉あゆむ 川嶋一美
こどものころ、絵本や図鑑で見る鳥のオスがメスよりはるかにきれいなのが不思議だった。思えばそもそもの初めは雉。桃山建築の欄間のようなオスの色あいはまさしく絢爛で華麗。それに比べるとメスの地味さはとても同じ雉だとは想像もできない。そのメスの茶褐色の色合いを作者は「土よりもすこし明るく」と見た。この向日性のフレーズがとてもいい。
一片のはなびら明日切る髪に 近 恵
明日切る髪にひとひらの花びらがとまったという。たぶんそれは伸びてきたから切るという日常の単純な行為ではない。作者は髪を切って何かを吹っ切ろうとしているに違いない。読み手に句の裏のそんな事情を推測させるドラマチックな一句だ。
栃木かな春の焚火を七つ見て 西村麒麟
栃木にて春蘭の二三日 同
恥ずかしながら、栃木ということばに日光の東照宮と中禅寺湖と男体山が真っ先に浮かび、ややあって江川卓を輩出した作新学院と宇都宮の餃子がくる。わたしの栃木との係わりは修学旅行と野球と食べ物。極めて貧しい。けれども作者は焚火を七つも見て春の栃木へと行った。しかもそこで二三日を過ごしたという。作者と栃木との係わりの程度を知らないけれどきっと春の栃木には作者向きの句材がごろごろ転がっているに違いない。
花吹雪から卵焼き守りけり 野口る理
今年の東京の桜は咲き初めに雨にあって色が薄いかなと思いもしたが、三日、四日と経つうちに本来の色合いを取り戻してきて何回かいい花見をさせてもらった。そんな花見のひとつに「各自料理を一品持参すること」というのがあった。いやあこの卵焼きは美味しそう。きっと作者の得意料理。「花吹雪から守る」のフレーズに特定の誰かに見せたい、食べさせたいという思いが存分にこもっている。素敵な恋の句だ。
角伐りの烏帽子がやけに眩しくて 曽根 毅
何年か前に奈良に角伐りを見に行った。投げ縄は西部劇のカウボーイの特技だとばかり思っていたら、そうじゃなかった。柵の中に追い込んだ鹿の角をめがけて縄を投げ、見事に引きずり倒すのだ。静止しているのさえ至難の技なのに角を振り乱して逃げ回る鹿を相手にするなんてもう神業。作者ならずとも、引き倒されて観念した鹿に引導を渡すように鋸を手にする烏帽子のひとがやけに眩しく見えた。
水温むピエロはいつも泣いている 山本たくや
「新明解国語辞典」略して「新解さん」で「ピエロ」を引いてみた。曰く「ヨーロッパの喜劇・サーカスなどで道化役。自分の本心・感情を抑えて、表面、はなやかに踊らせられる者の意にも用いられる」。ほんとピエロはいつも泣いている。切ない一句だ。
音響に設計図あり八重桜 仮屋賢一
あるところで飲んでいたら「信号を設計」するひとというのに出会ったことがあった。「信号を設計」するというから「信号機」を作るひとかと思ったら、通りや街角に信号機を据える時、前後の信号機や交通量を計算して信号の作動を的確にするシステムを作るのだという。自信作は、どこどこのどの交差点と設計図まで出して説明してくれたがチンプンカンプン。ふむふむ音響の設計図。これもなかなか難しそうだ。
電球のかたちを濡らす春の雨 木田智美
「電球のかたちを濡らす」のかなり省略の効いた表現が、読み手に解ったような解らないような不安感を与えるけれど、この、ぼーっとしたいい回しも悪くない。暗い所で何かを見るとき、目線を集中させるよりも目の端でとらえるとより正しく姿が浮んでくるように、電球の質感と在りようが解ってくるような気がする。とても気になる一句だ。
山笑ふせーのであける恋みくじ 山下舞子
ひと昔前に「みんなで渡れば怖くない」という一世を風靡したギャグがあった。是非はともかく、ある意味人間の本質をついている。それはそれとしてそんな雰囲気のあるこの句「せーのであける」のあっけらかんとした猥雑なことばの斡旋がなかなかだ。「恋みくじ」であればなお更のこと。おみくじの一枚一枚を覗いてみたい気がするほほ笑ましい一句だ。
第363号 2014年4月6日
■川嶋一美 あゆむ 10句 ≫読む
■近 恵 桜さよなら 10句 ≫読む
第364号 2014年4月13日
■西村麒麟 栃木 10句 ≫読む
■野口る理 四月10句 ≫読む
第365号 2014年4月20日
■曾根 毅 陰陽 10句 ≫読む
第366号 2014年4月27日 ふらここ・まるごとプロデュース号
■山本たくや 少年 10句 ≫読む
■仮屋賢一 手紙 10句 ≫読む
■木田智美 さくら、散策 10句 ≫読む
■山下舞子 桜 10句 ≫読む
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2014-05-18
【週俳4月の俳句を読む】春の焚火を七つ見て 菊田一平
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