【週俳6月の俳句を読む】
ほんのりと
今泉礼奈
すこし、春が懐かしくなってきました。
声になる最小限の語や春雷 井上雪子
話しはじめたが、雷が鳴ったことによって、それは中断される。「声になる最小限の語」というのは、ふしぎな感じがする。語はすべて発声できるものだろうし、そもそも語の何が最小限か分からない。でも、おそらく、そこまで考える必要はないのだろう。春雷のあとも、一瞬で、その前と同じ日常にもどる。
鳥を食ひ魚を食ひぬ昭和の日 陽美保子
確かに、わたしたちは、鶏の唐揚げを食べるし、今だと、鰹とか鱧とかもおいしい。でも、こんな言い方をされたら、ちょっと野蛮な人みたいに聞こえてしまう。そうなんだけど、いや、なんかちがうし、といった感じ。「昭和の日」という、なんともいえない祝日が妙に溶け込んでいる。
春荒れて笑ってしまう墓参り 西村遼
墓参りというのは、それが本来もっている特質とはかけはなれて、こんなもので。笑うつもりじゃなかったんだ、という心情がよく表れている。もはや、「笑ってしまう」と笑いながら声に出しているかのよう。
春の夜に乾く無人のバスの中 原田浩佑
おそらく、自分と運転手以外の人間は乗っておらず、肌感覚で、バスの中が乾いていくのを感じているのだろう。外からみてもそのバスは乾いていたりして。そんな春の夜は、すこしさみしい。
白玉や口ごもりたる話あり 梅津志保
呼び出したのはいいものの、なかなかその話をできない。そして、白玉をひとつ口にほおりこむ。白玉は口の中で迷いながらも、噛まれるのを待つ。そんな白玉と、その作者が対面している状況が、どことなく似ているような。なんともいえない緊張感に、白玉の甘さだけが、ほんのりと口の中に広がっていく。
水打つや影煮えたぎる人として 髙坂明良
じぶんの影を見ながら、ただぼんやりと、打ち水をする。その影はまるで煮えているように揺らめいている。頭がぼーっとする。煮えているのは、影か、わたしか。
ほんと、今日も暑いですね。みなさま、熱中症にはくれぐれもお気をつけください。
■陽 美保子 祝日 10句 ≫読む
第372号 2014年6月8日
■髙坂明良 六月ノ雨 10句 ≫読む
■原田浩佑 お手本 10句 ≫読む
第373号 2014年6月15日
■井上雪子 六月の日陰 10句 ≫読む
第374号 2014年6月22日
■梅津志保 夏岬 10句 ≫読む
第375号 2014年6月29日
■西村 遼 春の山 10句 ≫読む
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