2014-07-13

【週俳6月の俳句を読む】ほんのりと  今泉礼奈

【週俳6月の俳句を読む】
ほんのりと

今泉礼奈



すこし、春が懐かしくなってきました。

声になる最小限の語や春雷  井上雪子

話しはじめたが、雷が鳴ったことによって、それは中断される。「声になる最小限の語」というのは、ふしぎな感じがする。語はすべて発声できるものだろうし、そもそも語の何が最小限か分からない。でも、おそらく、そこまで考える必要はないのだろう。春雷のあとも、一瞬で、その前と同じ日常にもどる。

鳥を食ひ魚を食ひぬ昭和の日  陽美保子

確かに、わたしたちは、鶏の唐揚げを食べるし、今だと、鰹とか鱧とかもおいしい。でも、こんな言い方をされたら、ちょっと野蛮な人みたいに聞こえてしまう。そうなんだけど、いや、なんかちがうし、といった感じ。「昭和の日」という、なんともいえない祝日が妙に溶け込んでいる。

春荒れて笑ってしまう墓参り  西村遼

墓参りというのは、それが本来もっている特質とはかけはなれて、こんなもので。笑うつもりじゃなかったんだ、という心情がよく表れている。もはや、「笑ってしまう」と笑いながら声に出しているかのよう。

春の夜に乾く無人のバスの中  原田浩佑

おそらく、自分と運転手以外の人間は乗っておらず、肌感覚で、バスの中が乾いていくのを感じているのだろう。外からみてもそのバスは乾いていたりして。そんな春の夜は、すこしさみしい。

白玉や口ごもりたる話あり  梅津志保

呼び出したのはいいものの、なかなかその話をできない。そして、白玉をひとつ口にほおりこむ。白玉は口の中で迷いながらも、噛まれるのを待つ。そんな白玉と、その作者が対面している状況が、どことなく似ているような。なんともいえない緊張感に、白玉の甘さだけが、ほんのりと口の中に広がっていく。

水打つや影煮えたぎる人として  髙坂明良

じぶんの影を見ながら、ただぼんやりと、打ち水をする。その影はまるで煮えているように揺らめいている。頭がぼーっとする。煮えているのは、影か、わたしか。

ほんと、今日も暑いですね。みなさま、熱中症にはくれぐれもお気をつけください。



第371号 2014年6月1日
陽 美保子 祝日 10句 ≫読む
第372号 2014年6月8日
髙坂明良 六月ノ雨 10句 ≫読む
原田浩佑 お手本 10句 ≫読む
 第373号 2014年6月15日
井上雪子 六月の日陰 10句 ≫読む
第374号 2014年6月22日
梅津志保 夏岬 10句 ≫読む
第375号 2014年6月29日
西村 遼 春の山 10句 ≫読む

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