2014-07-13

【週俳6月の俳句を読む】長女的な寂しさ  宮本佳世乃

【週俳6月の俳句を読む】
長女的な寂しさ

宮本佳世乃


お手本をなぞると猫が濡れている  原田浩佑

6月の俳句の中で、この句がダントツにいいと思った。

1.お手本をなぞっていたら猫が濡れている姿が現れた。
2.私はお手本をなぞっている。/(どこかで)猫が濡れている。

2だと思う。
何のお手本なのか、なぜ猫は濡れているのか、どこで猫が濡れているのか。
それは書かれていない。
けれども、これを読んだ私(置き換え不可能な、私)の目の中では猫が濡れている。


みどりの日犬は片脚あげにけり  陽 美保子

取り合わせは難しい。なかでもこれはなんだか可笑しい。
みどりの日って一体何?という祝日の塑性から考えてしまいそうな。


父の日を埋める白魚集まりぬ  髙坂明良

言葉が多い俳句が並ぶなか、この「埋める」は屈託があっておもしろかった。
決して伊豆の何とか丼ではなく、白魚が埋めるほどそこらぢゅうにいるのである。


君だけを遺して暮れる枇杷匂ふ   井上雪子

枇杷の木の佇まいからは、拭うことのできないうす暗さを感じる。
枇杷の実として売られるかたちになってからの明るさとは離れて、この句もうす暗い。
そして他の句も長女的な寂しさを帯びている。


パラソルの陰を半分もらいけり   梅津志保

あっけらかんとした健康的な明るさを感じた。「半分」が効いていて、素朴さとか気遣いとかも見えてくる。


風神雷神呼びたくて春の山を売った   西村遼

集中、この一句がなければ俳句らしくなるにも関わらず、この句を選択するということ。

とくべつな時間のながれる切実な一句。


第371号 2014年6月1日
陽 美保子 祝日 10句 ≫読む
第372号 2014年6月8日
髙坂明良 六月ノ雨 10句 ≫読む
原田浩佑 お手本 10句 ≫読む
 第373号 2014年6月15日
井上雪子 六月の日陰 10句 ≫読む
第374号 2014年6月22日
梅津志保 夏岬 10句 ≫読む
第375号 2014年6月29日
西村 遼 春の山 10句 ≫読む

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