後記 ● 福田若之
端的に書くならば、木琴の音が聞こえてくる絵だな、と思ったのです。この絵。
それから、コンガとかも。観ているとだんだん音が大きくなって迫ってくるような感じ。こういうの共感覚っていうんでしょうか。クロスモーダルな?
野口裕さんのご子息の野口毅さんの作品で、個展がこの八月に開かれます。詳しくはリンクをご参照ください。
●
さて、クロスモーダル、というと、マルチモーダルとかいう似たような言葉が頭の中をよぎるのです。
超平たく言うと、情報を伝えたり受け取ったりするのに使うのって言葉だけじゃないよね、文字だけじゃ、もっとないよね、という話(もちろん、「文字の力」というのもかなり強く信じうるものではあるのですが)。たしかに、人が何かを伝えるには、全身使ってますよね(それが意識的にか、無意識的にかは置いておいて)。その全体をひっつかんだとき、言葉の意味だけじゃない、情報伝達のマルチモーダリティ(あえて訳すなら、多形態性?)を考えないと、ということです。
もともと言語学発祥のはずなんですが、情報工学とかではますます盛んに取り上げられていて、さらに、最近では英米圏のポストモダン小説研究なんかでも言われてきているみたいです(「ポストモダン」とは言いつつも、古くは『トリストラム・シャンディ』などからのつながりで、もっぱら小説における、挿絵などを含んだもろもろの視覚的な効果をめぐってのこと)。これは個人的にとても気になっている事柄。
●
さて、話が飛ぶように聞こえると思うんですが、今夜、句会であった某氏が、前に俳句の添削を頼まれたときのこと。
そのときは、作った句が紙で送られてきたという話だったのですが、それを添削するときには、やっぱりいろいろ考えないといけないことがある。
ここから先は僕の思ったことなんですが、たとえば、初心者相手に季語(季題)の話をするとき、ただ文面で「季語(季題)というのは……」と赤ペンなんかで書いたりすると、よほどやわらかく書いても、その文章を受け取った側からしたら、なんか先生に怒られたみたいな感じにも思えてしまうかもしれませんよね。直接会って話をしたら、たぶん、もっと、違う伝わり方をするでしょう。
もちろん、いろいろな現実的な問題から、そういうかたちでしかできないときというのがあって、そういうときには、なにも伝えないよりはなにかを伝えようとするほうがずっといいということもあるに違いないのだけれども。
思うに、これもひとつのマルチモーダリティの問題かなあと。何にせよ、それが赤ペンで書かれているっていうのはまた、クロスモーダルな意味合いを持ちますよね。
●
で、今回アップした佐藤栄作さんの「おばさんとおばあさんの話」も、つきつめるとそのマルチモーダルなりクロスモーダルにつながることを取り上げています。お名前で驚かれた方がいらしたかもしれないですが、もちろん非核三原則のあの人とは同姓同名の別人です、下記プロフィールをご覧ください。
さっき、ちらっと、マルチモーダルは言語学由来の問題、みたいなこと書きましたが、まさしく言語学の先生です。
●
それでは、また、次の日曜日にお会いしましょう。
no.380/2014-8-3 profile
■宮崎斗士 みやざき・とし
1962年東京都生まれ。「海程」所属。「青山俳句工場05」編集・発行人。第45回海程賞、第27回現代俳句新人賞受賞。句集『翌朝回路』『そんな青』(ともに六花書林刊)。現代俳句協会会員。 青山俳句工場05ブログ
■佐藤栄作 さとう・えいさく
1957年、香川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒、同大学院文学研究科博士後期課中退。神戸山手女子短大(1985~1996年)を経て、現在、愛媛大学教育学部教授(2001年~)。(2008年~2012年、附属中学校長を兼任)主たる研究領域は、音韻・アクセント、文字・表記。
主な著書:単著『見えない文字と見える文字 文字のかたちを考える』2013年三省堂、共著『日本語アクセント史総合資料研究篇』1998年東京堂出版。
■柳本々々 やぎもと・もともとかばん、おかじょうき所属。東京在住。
ブログ「あとがき全集。」http://yagimotomotomoto.blog.fc2.com
■西村 麒麟 にしむら・きりん
1983年生れ、「古志」所属。 句集『鶉』(2013・私家版)。第4回芝不器男俳句新人賞大石悦子奨励賞、第5回田中裕明賞(ともに2014)を受賞。
■馬場古戸暢 ばば・ことのぶ
■岡田由季 おかだ・ゆき
1966年生まれ。東京出身、大阪在住。「炎環」「豆の木」所属。2007年第一回週刊俳句賞受賞。ブログ「ブレンハイムスポットあるいは道草俳句日記」
■瀬戸正洋 せと・せいよう
1954年生まれ。れもん二十歳代俳句研究会に途中参加。春燈「第三次桃青会」結成に参加。月刊俳句同人誌「里」創刊に参加。2014年『俳句と雑文 B』を上梓。
■野口 裕 のぐち・ゆたか
1952年生。現在、句会・歌会・詩の会に行く回数をダイエット中。
1991年東京生まれ。「群青」、「ku+」に参加。共著『俳コレ』。
●
0 comments:
コメントを投稿