俳句タロット2026
2026-09-13
岸田祐子 俳句タロット2026 福田若之×千倉由穂〔後篇〕 俳句タロット2026
福田若之×千倉由穂〔後篇〕
記事化:岸田祐子
露草の色滲ませてゆくチャイム 千倉由穂
1枚目「ソードの8」・2枚目「世界」・3枚目「ペンタクルの9」
岸田祐子●おっ! なんと、さっきと同じカードがでた。あんなにシャッフルしたのに。
福田若之●残りの2枚は全然違う絵柄ですね。
祐子●2枚目のカードは大アルカナです。一般的に大アルカナは人生の大きな出来事や本質を表すカードと言われています。で、小アルカナの方は、もっと細いこと、日々の具体的な出来事を表すと言われています。さっきの「手書きの@が細胞みたいで雨で春で」の句では、小アルカナのカードしか出てきませんでしたが、今回は大アルカナが出ました。この世界、ザ・ワールドというカードは大アルカナの一番最後21番目のカードです。おみくじで言ったら大吉みたいな感じです。だけど、1枚目に出たカード、ソードの8が痛い。
若之●このカード、すごく不穏な感じがします。
祐子●身動きも取れないし、目隠しもされています。
千倉由穂●自分自身の占いで出てきたらどうしようって思っちゃう。
祐子●ただ、まぁ、数字が8だから。もうすぐ終るって感じだと思うのだけど。
由穂●10が終わりですか?
祐子●そうですね。小アルカナの数字のカードは1から10までで、10が最後の数字です。露草が生えている場所って沼地みたいなところだったりするのかしら? このカード、俳句を占っているのでなかったら、私なら少しおやすみしてみてくださいとか、急がないでくださいっていうかもしれないです。
若之●地面が少し濡れていますね。地面のところだけ見ると露草っぽさはあるな。
祐子●あと、洋服の色が青ですね。露草の色。
由穂●背景にあるお城の色も露草っぽいです。
祐子●ソードの8ではない2枚のカードはどちらもポジティブなカードです。なんか、露草という小さくて儚げな花に対して喜びが大きすぎる感じがあるんですよね。うーん、どう読むんだろう。世界のカードは大吉だし、ペンタクルの9は収穫を喜ぶカードですし。
若之●放課後なのかな。チャイムってその時間の区切りが何かの意味を持つから知らせるわけで、それに縛られる側面があるじゃないですか。学校生活なら学校生活の規則があって。
祐子●学校が嫌なのかな?
若之●嫌なのかどうかは分からないけれど、なんにせよそれに縛られてるという側面がある。
祐子●チャイムが鳴るまでそこに居なければならないとか。学校じゃなくて会社でも始業とか終業時にチャイムが鳴るところもありますよね。
西原天気●昼休みとかね。チャイムって昼休みのイメージない?
若之●イメージとしてあるのは朝の始業のチャイムと昼休みと終業なり放課後のチャイム。あ、でも、どうなんだろう。カードベースで読むとソードの8があるので縛られているという点で学校や会社を思い浮かべますけど俳句からイメージすると夕方5時のチャイムとかそういう感じの気もするな。夕空の色合いとか。そっちにゆく方が句の読みとしては正統な気がする。
祐子●どっちにしろ何かから解放されるチャイムなのかもしれないですね。ソードの8は、今はとらわれているけれどいずれは解放されるってカードだと思うのです。あと、縛られては居ますけど足は動かせますし、花も咲いていて救いがある感じがします。もう少ししたらこの状況から抜け出せるという雰囲気はあるように思います。
由穂●殺伐とはしているのですけれど、周りの環境はそこまでは怖くはない。花も咲いているし。
若之●ただ、パッと見るとすごくインパクトのある絵ですよね。
天気●お城が遠くに見えているんだね。
祐子●露草というところで見ると、世界のカードも真ん中の猫の楕円で囲まれた部分の青が濃くて露草っぽいですし、ソードの8の猫が着ている洋服も青だし、ペンタクルの9も青空なのでどのカードにも露草の色の青があるなと思います。
由穂●全てのカードに青色が入っているんですね。
若之●ですね。
祐子●露草は「露」とありますから水のイメージもありますし、滲ませてというところにも水のイメージがあるなと思います。
由穂●自分の句だと、なんだかコメントするの難しくなりますね。
若之●そうそう。結構、難しいんですよ。これ。どこまで言っていいんだろうみたいな。
由穂●説明しちゃいそうになるけれど、説明すると鑑賞を狭めてしまいそう。露草って、自分で作っておいてなんですけど、いつ頃閉じるんでしたっけ?
祐子●露草って朝に咲くんじゃないの? 違ったっけ?
若之●あれは時間の花なんですか? そもそも。
祐子●わからない。
若之●わりとずーっと咲いているイメージがあるけど。
祐子●ずっと咲いていましたっけ?
若之●いや、わからないです。
祐子●みんな花に詳しくないですね(笑)
若之●花期自体はめちゃくちゃ長いですよね。ずーっと咲いている。
祐子●秋の季題の花だけれど夏から咲いていると思う。
由穂●あ、そうだ。朝顔と同じで昼には萎むんだった。
若之●あー、そうなんだ。じゃあ、放課後ではないな。
祐子●咲いている時間が短いということは、先が見えているというか、ずっとは続かないということがあるのかなあ。ペンタクルの9をどう読むのかなと思っちゃう。チャイムって鐘の音なのかな? 私のイメージでは「キーンコーンカーンコーン」みたいな音なのですけれど。
若之●そうですね。僕もパッとイメージしたのはその音でしたね。
祐子●そうすると金属の音なのかな。コインは金属ですね。
若之●そうかー、なんか全然、午後に咲いているのを見たことがあるような気がしているけれど。
祐子●でも、咲いているんじゃないですか。朝顔も花が残っていることがあるじゃないですか。あと、この後にある葡萄が薄目で見ると露草に見えなくもないかも。
若之●時期は重なりますよね。葡萄と露草は。
祐子●それから、この世界。大吉のカードのことを思うと、チャイムが鳴るのが待ち遠しいとかなのでしょうか。嬉しい連絡。
若之●なんか、昼休みの感じはありますね。
祐子●世界は大アルカナの最後のカードなので「上がり」みたいな感じがあります。
若之●この周りを囲んでいる緑色のものは何ですか?
由穂●あ、ここに書いてある。 マンドルラ?
若之●「楕円形の植物の輪は、キリスト教美術において、神を描く時の背景として用いられる」。マンドルラはイタリア語でアーモンド形を意味するのだそうです。四隅に描かれているものは、本来は4種の生き物だそうですけど、このカードでは全部猫なんだね。
天気●ああ、これね。牛と人、これ、人かな?
若之●人とワシとライオン。「ひとつのピークに到達する直前である」と、解説書にある。昼休みですね。
由穂●かつて生徒だった頃、昼休みって嬉しいものでしたよね。
祐子●午前中の授業に苦手なものが多かったんですかね。学校じゃなかったとしても抑圧されるような時間があって。
若之●きっとすごく美味しいお弁当があるんですよ。美味しい給食とか。
祐子●チャイムというとどうしても学校を思い出しますね。そして、学校だと思うと露草がいいですね。薔薇の花などより露草には学校らしさがあります。
若之●校舎の影とかのちょっと湿ったところに咲いているイメージがあります。
由穂●確かに。ソードの8の足元にも水たまりがあって湿っていますね。
祐子●相当、午前中が辛いんでしょうね。
一同●あははははは。
天気●どのカードのこと? ソードの8? 辛いのか、あるいは退屈なのか。
祐子●あ、退屈。それもありますね。目隠しされているから景色も見えないですしね。
天気●興味が閉じ込められている退屈さ。授業がそうだよね。ちゃんと受けていたら窓の外くらいしか見えない。チャイムって他の音よりも染み渡る感じがありますよね。
祐子●時間が終わったという感じがあります。
天気●音色が空とか空気に染み渡る感じ。だんだん、すごく良い句に感じてきた。
祐子●「色滲ませてゆく」とありますが、色だけではなく音も滲んでゆく。
天気●チャイムってそういう作用があるような気がするな。
若之●露草の色って、わりと色合い自体は濃くて重たいといえば重たい感じ。ただ、それが滲むと明るくて発色の良い色、それこそ世界の背景にある水色みたいな色になる気がします。重さ・暗さから明るさへの転換みたいなイメージで読めそうな気はします。
祐子●露草の花の色はペンタクルの9の葡萄の色合いに似ていますよね。
若之●そうですね。花の色合いは葡萄の色みたいですね。
祐子●それが滲んでくるともっと明るい青になる。チャイムにも色々あって、曲が流れるようなものもあると思うのですが、ペンタクルの9の金貨を見ると、キーンコーンカーンコーンという金属音なのかなと思います。それからさっき占った時もそうだったんですけれど、今回も感情が管轄のカップのカードが出ていないのです。この句は、情緒のある景色だと思うのですが、そんなに湿っぽくないのかなとも。「滲ませて」と言われると情感がたっぷりな感じがありますが情感に訴えてゆくということとは少し離れているのかなとカードを見ていると思います。
若之●実際、句の仕立てとしても、感情がどっとあからさまに出てくるというタイプの句ではないから。
天気●感傷は感じるよ。
若之●そうですね。センチメンタルな感じというか。
天気●チャイムと露草の属性かもね。やっぱり、露草の色とか小ささがチャイムと合わさると切なさや感傷は感じるね。それこそ染み入る感じの。
若之●いいですよね。
祐子●染み入る感じや感傷ということでは、ソードの8のカードにそれを感じるかなあ。
天気●ソードの8は解説書ではどう説明されているの? 他のカードの比べて絵柄が明示的じゃないですか。
祐子●身動き取れないですよ、みたいな説明です。「女性が目隠しをされて縛られている。おまけに、剣に囲まれて身動きが取れない、にっちもさっちもいかない状況だ。このイメージは、占いに向き合う時の多くの状況にあてはまるのではないだろうか」とあります。
天気●占いをしてもらいたい時は、いつでも、そういう時ですよね。
祐子●どうしていいかわからないっていう状態なんでしょうね。
天気●でも、解説書に書かれていることって、いかにも占いであり、サジェスチョン的で、あんまり俳句の読みには反映させたくないですよね。まぁ、普通そうなるよね。占いって本当は実用だものね。なんか、おみくじみたいなことが書いてある。
若之●あー、そうですよね。こっちの解説書には「八方塞がりの沼地」って書いてあります。
由穂●水たまりが彼女が流した涙となっている。
若之●本当だ。涙でできた沼地って書いてありますよ。
由穂●足場が固まっていない感じ。
天気●この句が?
由穂●テーマが、でしょうか。
若之●なるほど、解説書によるとソードに情報というようなことを読み解くんですね。さっきの句の時に出てきたナイトもそうですけれど。周りに情報が溢れていてかえって身動きが取れない。
祐子●それ、授業中という感じがありますね。
若之●しかも目隠しをされちゃっているから結局、この人はその情報を受け取れない。そういうことみたいです。
天気●露草にもチャイムにも含意が多い。その意味の他に副次的にくっついてくる意味が多いような気がしますよね。チャイムというだけでなんか色々なものを呼び寄せるじゃないですか。さっき話したみたいな。それも割合、若い時のことを思い出すし。露草も他の花に比べて含意があるような気がする。
若之●そうですね。
祐子●チャイムというと私は学校を思い出します。
天気●露草にも道端みたいなイメージがある。学校の周りとか帰り道とか。僕はすぐに帰り道をイメージしましたね。帰り道の路傍。
祐子●あと、細い道を思い出します。広い大通りとかではなくて。
若之●うん、うん、うん。
天気●露草には地域的なこともあるのかな。仙台では露草はよく見かけた?
由穂●ありましたね。
天気●僕は関西なんだけど普通にものすごく頻繁に目にする花だった。
由穂●群生しますよね。一輪だけではなくて。
祐子●ただ、露草も見つけるまでは他の草に紛れてあまり見つからないのに、一度見つけるとたくさん生えているなと思うことが多いです。子供の頃は花を摘んで水につけて色水を作ったりしていました。
由穂●そうそう。私もしていました。
祐子●だから水と親しい感じがします。
天気●字も「露」だしね。日本語の「露」は含意がものすごく豊富だよね。
若之●和歌の文脈が全部乗っかってくるから。
天気●露の世、露の身。
祐子●涙とか。
天気●儚いもの。
祐子●露草の花も小さいですしね。さっきでた情報が溢れているという話、それを思うと情報に溺れているという考え方もできるのかな。溺れている人は小さい感じがするので露草の花の大きさとリンクするようにも思います。断定するのもあれですが、どんどん授業という気がしてきます。
天気●まぁ、それが一番のイメージかね。
若之●ですかね。
由穂●露草は、さっき話した、色水遊びをした花という印象が強いんですよ。だから「滲ませて」という言葉が出てきたのですけれど。その遊びの時に出てくる色がカードに出てきたなっていう。
若之●3枚のカードに共通する青ですね。
由穂●あと、色水にクエン酸を足すと紫色にもなる。そういう遊びをやっていたその色なのですよ。だからカードの色が露草っぽいなと思っていました。
祐子●確かに、色はそうですね。露草から色水を作って遊ぶとなると結構な量の露草が必要ですよね。収穫するという言い方はおかしいけれど、露草の花をたくさん集める。今の話を聞いて収穫という意味でペンタクルの9に関係してるかなと思います。
若之●たくさん生えているところからたくさん取るんですよね。8と9は近い数字だから、そのぐらいの数なんだなって。
祐子●授業中に色水作りたいなとか思っているのかな。でも、そんなストーリーに寄せる必要はないですね。あと、大アルカナの世界が出ているということは綺麗な色なのでしょうね。もう忘れてしまったけれど、色水を作るとき、あまり綺麗な色に出ないってこともありましたっけ? 失敗とかはないのでしょうか。
由穂●どうでしたかね。色水はどうかなぁ。長く置いておくと澱んでしまったりすることもあると思うのですが、露草自体は萎んでくしゃくしゃとなってしまっても青さは残っている。
若之●たぶん、「色滲ませてゆく」だから色が出た時の一番綺麗な色ですよね。
祐子●ちょうど一番いいところ、ピークですね。
若之●フレッシュな青さなのではないかな。
祐子●もし、かなり感傷的に寄せて読むとしたら、さっきも露の身とか露の世の話が出ましたけれど、悲しいことがあるというか、涙の色というか、そういう色が滲んでいてそれがチャイムによってリセットされる。そういうストーリーとしてもこのカードを読むことができるのかなとは思います。自分が露草みたいに小さくて儚い身だと。私、あまり俳句をそういう雰囲気で読むことがないので、自分で言っていて変な感じですが。俳句を鑑賞する時にストーリー仕立てにして読んだりすることはありますか?
由穂●うん。結構します。
若之●どうかな。句によります。
由穂●鑑賞する時、言葉にする時は違うかもしれないのですが頭の中ではストーリーを仕立ててしまうことはあります。
天気●この句でも?
由穂●この句はちょっと自作すぎて。
祐子●私は、この句だけを読んだ時には、今言った自分が露草のように小さい身なのだというようなことは思わなかったのですが、今回のようなカードが出てくると、そういった心情みたいなものに寄せてしまいたくなるところはあります。
天気●背景を呼び寄せるのかな。句だけ読むなら、人は全く出てこなくて、景色だけ。
祐子●私も句だけならそうです。
天気●でも、こういうカードが出てくると……というわけ?
祐子●そうです。なんていうのかな、ちょっと出てきたカードがドラマチックすぎるんですよね。チャイムの音がするなっていうだけの景色にしては。どうしても少しストーリーを考えたくなってしまう。
天気●例えば、句が出てくるまでの経緯とか背景はドラマチックだけど、句として出てきた景はそういうものではなく、すっとムードを詠んだものとなっている、ということですね。
祐子●そうです、そう言いたかった。ありがとうございます。
天気●作者のドラマをカードが暴いたということだ。
祐子●作者本人なのかどうかはわからないけれど。
若之●句の主体が。
天気●この句が出来上がるまでの経緯ね。
祐子●そうなのかなって。
若之●そうですよね。この句だけパッと渡されたら音の質感の方に話は終始するもんな。音の質感と色との。だから、こういう句を読むとき、普通の鑑賞だと、ある種の共感覚みたいな方に向かっていくのだけれど。背景の話をつけないとカードとの折り合いがつかない。
祐子●その時に露草というのが、さっき天気さんも言っていましたけれど色々な意味を持ってきてしまう。単に咲いているというだけではない他の意味を連れてきてしまう。
天気●季語ってまあ、そういうものなのだけど。ただ、露草は季語を離れても含意が多いということはあるよね。尚且つ皆が知っていてイメージしやすい。わりあい強力なモチーフというか季語だよね。けど、あんまり使わないよね。
若之●下五に置きにくいんですよ。だから何かと取り合わせるとなった時にはちょっと置きにくい。
祐子●私は露草の句はあまり作ったことがないです。結構、難しい。
天気●「露草や」とできるでしょ。
若之●できるんですけど、露草はキャラが強いので上五に置くと露草の句になりがち。
天気●なるほどね。伝統的な季題を詠むみたいになっちゃうんだ。でも、この句は季題を詠んでいると言えるよね。
若之●この句はわりとそうですよね。仕立てとしては。
天気●チャイムが主眼だけれど季題には沿っている。ちょっと俳句タロットからは離れちゃうけど句会に出した時にこの句の反応はどうだった?
由穂●句会の皆さんの反応ってことですか?
天気●はい。僕はうまい句だと思う。ムードの句だけれどなんか好きな句。だからきっと句会で出たら採ると思う。でも、ムードの句は句会での反応は? これ句会に出したんですか?
由穂●出したと思います。この句に限らず、共感覚みたいな句は時々作ることがあるのですが、わからないという人もいるし、いいなという人もいて、好みがはっきり分かれてしまいます。
天気●ムードの句はそうなのかな。具体的なことを詠んでいないし、うまく描写した句でもない。ムードの句というのはそうなるんだね。そこは個人的に興味があった。でも、取り合わせとかバランスとか書き方によって気に入る、気に入らないというのがあるんですよね。僕は俳句のテクスチャーを重視するからこの句にはテクスチャーがある。別に描写している句ではないけれど質感があるから好きな句。
由穂●テクスチャーとか質感とかムードが良いと思った時に、説明する言葉を自分が持っていないことがあって。そういう時に選句の難しさを感じます。句をとって発言を求められたらどうしようというブレが生じる。句会という場では。
天気●それはね、どんどん無くした方がいいですよ。
由穂●そうですよね。
天気●それこそ、俳句のというか句会の本末転倒だと思う。そこは「テクスチャーが良い」でいいんじゃないの。
若之●うん。それでいいです。
由穂●言語化ができない外側のいいと思った感覚を掴んだらその句はとった方がいいんですよね。
天気●だって、「質感」と言語化できているのだもの。でも質感を質感というだけで、それがザラザラしているとかネチョネチョしているとかではないから。言葉の質感だから。質感と言えばそれでいいんじゃないかな。
祐子●そういう時、「なんかいいと思いました」って言ってしまう。
若之●いや、いいんですよ。いいんですよ。
天気●「好き」とだけ言っておけばとられた方も喜ぶ。良いとか上手いとか言われるより、好きな句って言われるのが一番嬉しい。上手いと思うけど好きにはなれないって言われても嬉しくない。
祐子●そんな風には言われたくないなー。
若之●そういうこともありますよ。
天気●そういう作風だってあるじゃないですか。頑張って上手に作っているけど、好きかどうかって言われると好きじゃないなって。昔からそれは問題でね、もっとはっきり本末転倒なケースもありますよ。当てられた時に説明のしようがないからとらなかったとかね。とっとけばいいのに。
由穂●そうですよね。この句とりたいけど、ちょっとどうコメントしようかなというところで逡巡してしまうことがあって。いや、最終的にはとるんですけどね。
天気●うまくコメントするということを考えすぎなのかも。それは個人がというより句会の雰囲気もありますね。
若之●ですね。
天気●本当は選句の時点でほとんど終わっている。鑑賞以前にとっちゃうという句もあるから。選んでるというところで終わっている。
若之●句会の話になってしまいますけれど、鑑賞しにくい句ほど点は入れてあげたほうが良いんですよ。とりあえず、これはいい句ですよっていうことを伝えるには点を入れるしかない。話しにくい句ほどそうなんだよな。本当は。
天気●自分の一票が重要になってくる。これは誰が話しても同じ褒め方になるという句は、ほっといてもいいわけで。違う言い方をすれば、どこに出しても恥ずかしくない句は別にとらなくてもよい。外に出したら恥ずかしいっていう句がこの場での意味になる場合があるからとる。でも、外に出しちゃだめよ。
若之●あはははは。外に出しちゃだめなんだ。話を少し戻すと、タロットカードを使って鑑賞すると、この句でそんな読み筋があるんだっていう読み方をしましたね。
祐子●だって、出たカードがドラマチックすぎるんだもの。
天気●でも、読む時に人を持ってこないと気が済まないという読み方をする人もいますよ。この句も、露草をどこで誰が見ているのかみたいなね。
若之●人が読みに入ってくる余地は大いにある。「滲ませてゆく」はかなり人間の気配がする表現ではあるから。チャイムも人間の世の中のものだし。そういう意味では人間が入る余地があるから、この読み方も成り立っている感じはする。
天気●この句には聴覚と視覚がかなりしっかり入っている。
祐子●句だけを読んだ時は、露草の色が水に溶けて滲んでゆくということと、チャイムの音が広がってふわーっとしてゆくことだけを感じました。
若之●色と音がオーバーラップしてゆく。
祐子●人がいるのかもしれないけれどあまり人の気配を意識しないでいました。
若之●そこはすごく同意です。そうなはずなんです。滲ませてゆくとかチャイムにもそこまで比重をかけた読みはしない。チャイムに比重をかけないというよりは、チャイムが人間世間のものだということに比重をかけないのだけれど。タロットカードがあると、そっちがむしろ際立ってきて、その読み筋が案外この句でも成り立つということを教えてくれる。
祐子●それが良いことなのかどうかはよくわからないけれど。
若之●一周回っていいのかも。普通だと、俳句は人間世間にずぶずぶになっている感覚をちょっと違った角度から捉え返すためにあって、たとえばこの句なら、露草の色が滲んでゆくところにチャイムがオーバーラップするところで、チャイムが普段の日常の意味合いではなくて音そのものとして感じられる。そういう風に、人間の文脈から切り離すということが俳句の一つの面白みなのだけれど、カードがあると、むしろ、我々は俳句を人間の文脈から切り離して読みがちですよねってなって、もう一回、人間世間に引き戻した時にどうなるのって話になりやすい感じがします。普段の俳句の読み方とちょっと違っている。
由穂●すごく俗的というか、チャイムってなんで鳴るんだっけみたいなところに立ち返って考えることになった。そこから切り離して俳句にしているはずなのに。
若之●俳句という枠組みによって自動化されているものを異化したのだけれど、俳句の読みにおいて異化の仕方が自動化されているから、タロットを使って、もう一回、その異化の仕方を異化しましょうみたいな。そういう話になっている。
由穂●そもそもの着想みたいなを話してみてもいいですか。句会で名前を開けた後に「こういう思いで作りました」っていうとちょっと恥ずかしくなってしまうやつを言います。先ほどチャイムの時間帯の話も出たので、自分でもそうだったと思い出したのですが、私は朝のイメージで詠みました。一時、東北の田舎の方に住んでいたことがあって、朝の6時半か7時くらいに農作業を始める人のためのチャイムというのが鳴るんです。結構、優しい音で一音一音丁寧な朝のチャイム。その村は、朝と正午と夕方にチャイムが鳴るのです。常にチャイムに淡く縛られている感じがあった。
若之●あー、なるほど。
由穂●その朝のチャイムがなった時に、露草という水っぽい滲みやすいものがその音に広がってゆくイメージで作ったのですが、その根底にチャイムがどの場所にいても鳴ってしまうという閉塞感、息苦しさが当時あったので、ソードの8のカードはなるほどと思いました。
若之●農作業だと、もろにペンタクルの9のカードですよね。
由穂●みなさんが鑑賞したのは学校のチャイムでしたけれど、やはりチャイムというものは区切ってくるもの、縛ってくるものというイメージシンボルでもあるのかなと思いました。
天気●時報だね。時報と書いてチャイムとルビだね。
若之●うーん。それは、どうかな。
祐子●そこには何年くらい住んでいたのですか?
由穂●3年間です。でも作ったのはもっとずっと後で、大人になってからです。作り終えてみると着想などは手放してしまうので、聞きながら、あれ、どうやって作ったっけと改めて思い出しました。今回出たカードは着想の部分だったのかなと思います。
(了)
2026-09-06
岸田祐子 俳句タロット2026 福田若之×千倉由穂〔前篇〕
俳句タロット2026
福田若之×千倉由穂〔前篇〕
記事化:岸田祐子
〔前口上〕
タロットカードで一句を占う。その第2弾。占い師は岸田祐子さん、占ってもらうのは、千倉由穂さんと福田若之さんの各1句。出現したカードを眺めつつ、岸田祐子さんに導かれ、みなであれやこれやとおしゃべりしました。(見物人・西原天気)
◆
手書きの@が細胞みたいで雨で春で 福田若之
一枚目「ペンタクルの9」・2枚目「ソードのナイト」・3枚目「ワンドのペイジ」
岸田祐子●タロットカードでペンタクルというのはお金とか土地などの財産や現実的なものを扱います。俳句ではないものを占っていたとしたらペンタクルの9は、努力が実るとか、やってきたことが形になるなどと言いたくなるカードです。ソードは理論とか知識を扱います。ナイトは青年期を表すので、勢いのある年代です。なかでもソードのナイトは、四人のナイトの中で一番スピード感のあるカードです。最後の一枚がワンドのペイジです。ワンドは棒のことなのですが情熱とかやる気とかそういうものを扱います。ペイジは小姓でまだ未熟な人を表します。ですから、これから何かを始めるという感じがします。情熱が芽生え始めるとかなのかな。どれもポジティブなカードです。けど……、難しい。
一同●笑い
祐子●でも、まずワンドのペイジが春っぽいなと思いました。
福田若之●ですね。
祐子●空の雲の色がピンクですし、桜のようにも見えてきます。新しいことを始めるという意味があるカードなのと、進学とか進級など世界が新しくなるということが春にはあるので。だけど、スピード感は私はこの俳句にはあまり感じられないかなぁ。@は金貨の形に似ていますね。
西原天気●スピード感があるって出ているのですか。
祐子●ソードのナイトのカードは速いです。
天気●後半の「で」にスピード感がありますね。
祐子●「みたいで雨で春で」と「で」をたたみかけるということですか。
天気●そう。そこで加速しますよね。
祐子●なるほど。言われてみれば。
天気●と、こじつけてゆくのが……。
若之●俳句タロットなわけですね(笑)
祐子●そうです、そうです!
天気●記号論とか象徴論とかも使いながら。だからその辺、脱線しまくっていいと思いますよ。前回は贈与論の話まで出たんだから。
祐子●あと、今、思ったのですが「@が細胞みたいで」とありますから9個に分裂したのかなって。@の形と金貨の形は似ていますし、細胞が分裂して増えることを実りと言っていいのか分かりませんが。
天気●言っていいでしょう。
祐子●そうしたらやっぱり、それはペンタクルの9が「細胞みたいで」というところに合っているのかなと思います。
千倉由穂●手書きで書いた時の走り書きの感じにスピード感が出ているのかなと思います。この俳句だけだと一つのメールアドレスを書いていたのかなと思ったのですが、9が出ているので沢山のメールアドレスを書いているのかもしれません。だとしたら@が連なっているとも考えられそうかな。@って、メールアドレス以外に何か使いましたっけ?
若之●手で書く場面というと僕もメールアドレスを教える時を想定していました。あとは、若者言葉的には「どこそこに居ます」という時に@を使います。
祐子●@にはそういう意味があるのですか。
若之●もともと@はアドレスを示すためのマークなので。
祐子●@のことをアットと言いますか?
由穂●アット西国分寺みたいに言います。
祐子●そっか、実はこの句はアットと読むのかアットマークと読むのかどっちかなってちらっと思ったんですよ。だけど@のことをメールのアドレスと思い込んでしまったのでアットマークって読んでしまいました。
天気●あぁ、でも人に伝えるときはアットマークって言うよ。
若之●そっか、そうなんだ。僕は自分で言うときは結構「アット」って言うんですよ。
天気●ただ、意味的にはどこそこに居るということですよね。9と結びつけたいのですか?
祐子●私はペンタクルの9のカードにある金貨の絵と@が似ているなって。ただ、アットと読む方が17音の定型に近いのかなって。
若之●定型には近いですね。
天気●他のカードは何が出ているんですか。
祐子●ソードのナイトとワンドのペイジです。ソードは決断や理論、知識、情報が管轄です。ナイトだから肉体的に一番充実している年頃の人。特にこのソードのナイトは速いです。スピード感に溢れる。ワンドは情熱とか勢い。ペイジはまだ幼い。未熟だけれど純粋無垢。
天気●ワンドのペイジのことを思えば、この句の口調は成熟というより無垢な感じがありますよね。若之くんの青春っぽい句はみんなそうだけど。
若之●「いいさし」という感じですよね。
天気●ソードのナイトは馬で速いのだからメールと合います。
若之●まさしく、情報の速度。
天気●スネイルメールより速い。
祐子●スネイルメールって何ですか?
天気●蝸牛のメールということで紙の郵便のことをスネイルメールって言います。最近は言わないの?
若之●言わないですね。
天気●昔は電子メールと区別をつけるためにこの言い方をしたんです。
若之●ソードのナイトはやっぱりそういうイメージなのかな。句の内容に関わるイメージが先に立つのかなと思います。
祐子●確かにそうですね。@がメールのことだとしたら情報ですものね。
由穂●手書きのスピードと、とりあえずここにメールアドレスを書いてということで、関係性が急速に近づく感じがあります。
祐子●もう、急いでむにゅむにゅむにゅって書いている感じ。
由穂●関係性が始まる感じもあるかなと思います。
若之●このタロットって背景の図柄にも何か意味があるんですか。
祐子●あります。例えば、ペンタクルの9だったら果実が実ってて天気も良さそうだとか。ソードのナイトだと天気は少し不穏な感じだけれど足元に花が咲いているとか。そういうことを細かく見てゆきます。
若之●ワンドのペイジの背景にあるピラミッドがすごく気になっていて。
祐子●何でしょうね。でもこのカードで出てくるピラミッドはなんとなくポジティブな感じがします。
天気●エジプトのピラミッドですよね。
祐子●灼熱の世界がワンドの世界なんですって。灼熱が情熱だと思うのですけど。だから砂漠なのかな。
若之●なるほど、そう繋がるんだ。そうしたら細胞の中に熱があるんだ。たぎってるんですね。
祐子●ペイジだと若いってことだから、フレッシュな細胞がどんどん生まれているのかなぁ。死んでゆく細胞ではなく生まれてくる細胞という感じ。
若之●由穂さんがさっき、走り書きの感じがって言っていたけれど、走り書きの@は元気な細胞にも見えるのかな。
由穂●躍動感がありますね。なんか、どんどん思考が広がってきて面白いです。カードを手がかりに句を読みたいのに、自分の中でまだ俳句とカードがうまくつながっていなくて、分裂しています。だから、これから言うことはここだけの話となってしまうかもしれないのですけど。この句は@という文字の形が特殊なので、どうしてもそこに目がいってしまいます。でも、むしろ、この句の一番のわからなさは@を「細胞みたい」と言っているところなんですよね。
天気●その理由をカードに聞いてゆくという集まりです。
由穂●わからなさのヒントはカードの中にあるんだろうけど。
祐子●細胞、細胞、そうだなぁ……。
由穂●細胞には怖さもありますよね。増殖したり。
祐子●そういう意味で考えれば、実ってゆくということは増えてゆくということですよね。
由穂●よく見るとペンタクル9のカードの金貨の奥に葡萄みたいなものが描かれていて、それが細胞っぽい怖さがあります。
若之●ありますね。
祐子●この葡萄みたいなもの、見た目も細胞っぽいですね。
若之●ペンタクルの9って、実りとか富とかっていう意味なんですかね。
祐子●このカードはそういう意味です。こういう数字のカードは小アルカナと言います。小アルカナは1から10までの数字札と、ペイジ、ナイト、クイーン、キングという4枚の人物札で構成されています。小アルカナの数字札は1から10までなので、9はもう終盤の数字です。かなり実っていて結構収穫があるよというカードになります。
天気●ペイジってどういう意味でしたっけ。
祐子●小姓、まだ子供です。
若之●さっき、天気さんが贈与論の話をしたのでそれに引っ張られてしまっているのかもしれないのですが、貨幣というものは交換するものだから@が貨幣に似ているというのは、何かと置き換えできるということなのかなぁと。
祐子●手書きの@が何かに置き換えできるってことですか。
若之●メールアドレス。メールアドレスって結構変更したりしますよね。
祐子●そうだ。ずっと同じアドレスとは限らないですね。変わったりしますね。
若之●あ、あとは、アドレスを交換するということができるか。多分、片方だけがメールアドレスを教えて終わりっていうことはあまりなさそう。お互いに教えあう。
由穂●今調べてみていたのですが、@は会計において一般的に用いられる記号らしいです。
若之●え、会計で使うんですか。何を表すんだろう。
由穂●主に単価あたりの金額を表すそうです。例えば、@1000円と書いたら一単位あたり1000円ということです。
祐子●へー、知らなかった。じゃあ本当にお金というか価値って感じですかね。住所とかも価値といえば価値かも。
若之●はははは。もしかしたら、これ、面白い読みになるかもしれませんね。
由穂●もともとは請求書などに用いられていたのだけれど、レイ・トムリンソンという人が電子メールアドレスに用いて、1990年代以降に広く普及したみたいです。ちなみに、私と若之さんは同い年で1991年生まれです。
祐子●じゃあ、生まれた頃にはもう@が電子メールで広く使われるようになっていたのですね。それ、細胞分裂して変わっていったんですかね。
若之●記号の意味が育ったんだ。
祐子●手書きで@を書き続けるとだんだん疲れてきてぐにゃってした@になったりしそうじゃないですか。そういう間に@の意味がまた別のものに変わってゆくのかもしれないですね。それって細胞分裂みたいな感じがします。
若之●育ってゆく感じがします。@の意味の変遷が普通に面白い話だな。これ、知らなかった。
由穂●国ごとに意味が違うみたいです。さっき出てきたスネイルメールの蝸牛もそうですし、アヒルとか。見立てる形によって違うみたいです。一つの記号にいろいろな意味が入っていますね。
祐子●@は意味が固定されていた訳ではなかったのですね。それはご存知でしたか?
若之●いやいや、知らない。知らずに作っていました。
由穂●ワンドのペイジはソードのナイトの見習いなのですか?
祐子●タロットではそういう上下関係ではないと思います。ペイジ、ナイト、クイーン、キングはそれぞれのスートにいる人物カードです。タロットカードの小アルカナは4つのスートに分かれています。トランプと似ているのです。ハート、スペード、クラブ、ダイヤの4つにトランプが分かれているようにカップ、ソード、ワンド、ペンタクルの4つがあるので、ワンドとソードではスートが違いますね。
天気●ダイヤは槍なのかな?
祐子●ダイヤはお金のことです。スペードがソードで、クラブがワンド、ハートがカップです。今回の占いでは出てきませんでしたがカップは気持ちや感情を表します。この句には春や雨といった情緒的な言葉がありますが、情緒はない。
若之●ほんと!? それは、まことですか(笑)
祐子●カード的には情緒の要素は出ていないです(笑)
由穂●でも、ワンドのペイジの背景に春めきを感じるという話も出ましたよね。
祐子●春めきは感じますけど、気持ちのカードは出てきていない。だからわりとドライなのかもしれないですね。景色は綺麗なのですけれど情感たっぷりというわけじゃないというか。
若之●あー、そうかも。
祐子●でも、ドライって言っても冷たい訳じゃないと思います。情熱はあるから。
若之●難しい(笑)
天気●湿っぽくない。
由穂●タロットに季節感を見出せる場合もあるのですか?
祐子●あると思います。ペンタクルの9のように実りとか収穫とかなら秋のイメージがあるし、花が咲いていれば春っぽさを感じます。私は、ワンドのペイジが被っている帽子についている羽に春らしさを感じます。ピンクとオレンジでふわふわしている。この後のピンクの雲が桜にも見えます。今日ちょうど、桜が咲いていたこともあってそれに引っ張られているのかなとも思いますけど。
天気●これは単なる興味で聞くのですが、図像という意味ではどのタロットカードも共通なんですか?
祐子●共通していません。一般的なというか多くの人が使っている図柄というものはあるのですが、新しい作家が新しい解釈で新しいカードを作っています。タロットカードによって絵柄は全然違います。私が使っているものは一番ポピュラーなライダー版というカードに準じたものです。
天気●じゃあ、今、使っているカードで占う時には背景が春っぽいとか感じてもいいけれど、そうでない場合は背景に何が描かれているかにはあまり意味がない?
祐子●そんなことないです。出てきたカードを見て読み取ります。
天気●そのカードの色合いから何かを読み取って構わないということですね。
祐子●そうです。
天気●もし、変わったデザインのカードを使っていたとしても、それはそれで読むと。
祐子●例えば、これが結構使っている人が多いと言われているライダー版の「ワンドのペイジ」の絵柄です。ペイジを比べてみるとこんな感じです。私が使っているカードは人間が猫になっています。
天気●ライダー版は、もっとおどろおどろしいんですね。
由穂●ライダー版のペイジは棒というより杖みたいなものを持っていますね。
祐子●そうですね。私が使っているタロットカードはライダー版に準じているけれどちょっと可愛くなっています。だけど、もっと全然違う絵柄のカードもあって、それは使う人が好きなものを選びます。あと、使う人にとって読みやすいか読みにくいかということもあります。もっとずっと抽象的な絵柄のものもあるので。
由穂●よく見るとカードの人物に表情がありますね。
若之●うん。それぞれの顔をしているな。ペンタクルの9のカードには鳥がいますね。何の鳥だろう。
天気●何の鳥かはわからないけれど、意味ありげだね。
若之●そうなんですよ。
祐子●鳥というと伝書鳩とかメールに繋げて考えられますね。
由穂●何か咥えてますね。
祐子●この鳥、どういう顔なのだろう。
天気●頭に何かついているようにも見える。
若之●ちょっとよく見ていいですか。えーっ、これどうなってるんだろうな。わかんない。
天気●解説書(をめくりながら)には何の鳥かは書いていないね。「鳥はいつでも飛び立てるけれど居心地が良いため好んで留まっている。女性もそうした自由な客を歓迎しているようだ」と書いてある。
祐子●自由に行き来できるというところにメールを思い浮かべました。
天気●確かにそうですね。ただ、まだ腕に止まっているということは送信済みではないのかもしれない。
若之●とりあえずメールアドレス伝えた段階ですから。
天気●そうしたら鳥がメールってことですね。
若之●ハゲタカみたいな鳥なのかな。
天気●猛禽類にしては小さいんだよな。
若之●ですね。ただ腕に止まらせる鳥といえば鷹狩などを思い出しますね。あっ!!! わかった、急にわかった。これ、鳥がこっち向いているんですよ。で、目が蠅みたいになっている。
由穂●オレンジが目なの? 仮面ライダーみたい。
天気●あー、わかる、わかる。だんだん見えてきた。
由穂●コンドルって頭に鶏冠みたいなのがついているからコンドルなのかも。
若之●肉食ですね。伝書鳩ではなかった。
祐子●ですね。でも、もし何かを運ぶとしたら速そうですね。
若之●かもめーるでもない。
天気●ペリカン便でもない。
若之●ペンタクルの9だけ女性なんですか?
祐子●はい。女性です。
若之●作った時の話をすると。2月に川柳作家の樋口由紀子さんが亡くなられました。その時にwebで追悼句会があって。参加してくださいと案内をもらっていたんですよ。3句出そうと思っていて、その時は仕上げられなくて出せなかったんですけど。この句はその時に出そうとしていたうちの一句をあとになって手直ししたものなんです。いわゆる追悼句ではないんですが、樋口さんのことを思いながら書いた句ではある。
天気●投句しなかったわけだ。
若之●出せなかったんですよ。出そうとはしたけど句が揃わなかった。それで、ペンタクルの9のカードに女性が描かれているので、樋口さん? ──ってちょっと思った。
天気●不達の投句だね。
若之●すっと立っている感じも樋口さんっぽいし。
祐子●届いてない投句、そうするとまだ鳥が飛んでいないのも説明がつきますね。3枚のうち女性が描かれたカードは1枚だけですね。
若之●ワンドのペイジの後に描かれているピラミッドはお墓だなぁとか。
祐子●確かに。
若之●自分では樋口さんへ向けた句という成り立ちがあったから、結構その辺りが気になりました。
由穂●体の向きにも意味はありますか? ソードのナイトとワンドのペイジはペンタクルの9の女性と向かい合っていますよね。
若之●ほんとだ。ペンタクルの9の女性に向かって運んでいるのかも。
由穂●ペンタクルの9以外はアイテムを持っているというところも気になります。
天気●ワンドのペイジからのメッセージをソードのナイトがペンタクルの9へ運んでいると考えられそうですね。
祐子●そうするとワンドのペイジが若之さんなのかな? だとしたら年齢差も。樋口さんの方が若之さんより年上ですよね。
若之●そうやって見ると符合してくるなあ。
祐子●そのエピソードは全く知らなかったけど……。当たりますね(笑)。
天気●手書きの@と樋口さんと何か結びつくものはあるの?
若之●感覚的なことで、樋口さんとの間で具体的に何かあったという記憶はないのですが、鶯谷駅前の定食屋で樋口さんと連句をまいたことがあったんです。樋口さんが捌きで。その時のことがすごく印象に残っているんですよね。何回かお会いしているんですけどその回が一番印象に残っている。たしか、初対面だったのかな。それまでも「ウラハイ」などで樋口さんが書かれているものは読んでいたので、ネットで先に知っていた。そういう人と実際にあって連句まいてということがとても印象的だった。あ、もしかしたら初対面はもうちょっと前にあったかも。でも、今となってはもうわからなくなってしまった。
天気●僕も樋口さんとだいぶ長いのに一番最初がどう出会ったか何も思い出せないんだよね。時間が経つと最初どうだったか思い出せないよね。
若之●そうですね。
天気●若之くんとの最初のことも全然思い出せない。覚えてる?
若之●ちょっと覚えてます。最初に会った時は、天気さんのご自宅でした。誰と来たかは覚えていないけど。
天気●ふーん。由穂さんのこともそのうち最初がどうだったか忘れちゃうよ。
由穂●その時、私が今日のこと話しますよ。でも、記憶って過去になるほど平たくなって、出来事の記憶の順番も前後してしまったりしますよね。
祐子●由穂さんと天気さんは今日が初対面ですもんね。ところで、樋口さんとは長いお付き合いだったんですよね? 最初のきっかけは覚えていますか?
若之●最初のきっかけは忘れてしまったけれど、知り合ってからはそれなりに長かった。ただ、「いつからですか?」って聞かれると明確な時間感覚がない。たぶん、やっぱり鶯谷がきっかけだと思う。
祐子●こういう話を聞くと、ペンタクル9の女性が樋口さんに見えてきてしまいますね。
若之●タイミングを見計らっていました。この話をしちゃうと他の話ができなくなると思ったので。
(後篇に続く)
2026-08-02
後記+プロフィール1006
後記 ◆ 福田若之
under construction
no.1006/2026-8-2 profile
■岩田奎 いわた・けい
7月、書肆侃侃房より第2句集『敵』を刊行。9月、下呂 Art Discovery 2026にてパフォーマンス/ワークショップ「湯屋でやる」を決行。詳細はhttps://www.instagram.com/yaru_doing
■太田うさぎ おおた・うさぎ
1963年東京生まれ。「豆の木」「街」会員。「なんぢや」同人。現代俳句協会会員。共著に『俳コレ』(2011年、邑書林)。句集に『また明日』(左右社/2020年6月)。
■柴田千晶 しばた・ちあき
「街」所属、句集『赤き毛皮』、共著『再読・波多野爽波』など。
「街」所属、句集『赤き毛皮』、共著『再読・波多野爽波』など。
■鈴木茂雄 すずき・しげお
堺市在住。「Picnic」「KoteKote-句-Love」所属。Twitter「ハイク・カプセル」http://twitter.com/haiku_capsule
■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
■西原天気 さいばら・てんき
■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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2026-06-28
後記+プロフィール1001
後記 ◆ 福田若之
校歌というのは、思いがけない人が関わっていたりして、おもしろいことがありますね。
短歌にまったく疎い僕は、恥ずかしながら、土岐善麿という名を一昨年ごろにはじめて歌人として知ったのですが、あとでわかって驚いたのは、彼が僕の通っていた小学校の校歌の作詞をしていたということ。
YouTubeで探してみたら、ひとの歌っている動画が出てきました。
〽正しきもののみ ちからなりと
社会は呼ぶよ 野の風に
のところ、子どもながらに、かっこいい詞だなと思っていたのを思い出します。
調べてみると、善麿は生前けっこうな数の校歌の作詞をしていたようです。
●
それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.1001/2026-6-28 profile
■伊野こう いの・こう
川柳結社「蜂」編集部。のんべえ大学東京キャンパス所属。第一回鱗kokera川柳賞受賞。
■小野寺里穂 おのでら・りほ
1994年岩手県生まれ。2023年第一句集『いきしにのまつきょうかいで』刊行。川柳句会ビー面参加。川柳結社「蜂」同人。シアターカンパニーDr. Holiday Laboratory メンバー。
■暮田真名 くれだ・まな
1997年東京生まれ。「蜂」主宰。著書に『ゆきどけ産声翻訳機 Best selection 100 現代川柳アンソロジー』など。
■榊陽子 さかき・ようこ
1968年生まれ。川柳(無所属)。
■森砂季 もり・さき
2023年2月、暮田真名氏の『あなたの知らない川柳の世界』を受講し、現代川柳を詠むようになる。川柳結社「蜂」、川柳スパイラル会員。句集「現代川柳句集 プニヨンマ」(私家版)。翌年から、川柳をボーカロイドに歌ってもらう「現代川柳ボカロP」という活動を始める。
■生駒大祐 いこま・だいすけ
1987年三重生まれ。大塚凱と「ねじまわし」を共同発行。イベントユニット「真空社」社員。受賞に第3回攝津幸彦記念賞、第5回芝不器男俳句新人賞、第11回田中裕明賞(『水界園丁』にて)等。句集に『水界園丁』(港の人, 2019)。
■大塚凱 おおつか・がい
1995年千葉生まれ。「ねじまわし」を発行。イベントユニット「真空社」社員。第7回石田波郷新人賞、第2回円錐新鋭作品賞夢前賞。
■中山奈々 なかやま・なな
1986年5月生まれ。歯の詰めものが取れたまま放置している。そろそろ行かねば。「百鳥」「淡竹」「川柳スパイラル」
■南幸佑 みなみ・こうすけ
2004年生。澤俳句会、東大俳句会所属。俳句賞「25」実行委員(副委員長)。
■湊圭伍 みなと・けいご
松山在住。「川柳スパイラル」「せんりゅうぐるーぷGOKEN」「Lyric Jungle」同人。句集『そら耳のつづきを』(書肆侃侃房)。『はじめまして現代川柳』(小池正博編著、書肆侃侃房)に入集。海馬万句合・海馬川柳句会主催。
■山田耕司 やまだ・こうじ
1967年生まれ。俳句同人誌「円錐」編集人。句集『大風呂敷』『不純』。
■岡田一実 おかだ・かずみ
1976年富山生まれ、松山在住。「鏡」同人。note(https://note.com/suisei13)で俳論やPDF句集などを発表中。
■吉川千早 よしかわ・ちはや
1982年生。澤俳句会同人。俳人協会会員。第10回新鋭俳句評論賞。
■細村星一郎 ほそむら・せいいちろう
2000年生。第十六回鬼貫青春俳句大賞。webサイト「巨大」管理人。
■鈴木茂雄 すずき・しげお
堺市在住。「Picnic」「KoteKote-句-Love」所属。Twitter「ハイク・カプセル」http://twitter.com/haiku_capsule
■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
■岡田由季 おかだ・ゆき
1966年生まれ。「炎環」同人。「豆の木」「ユプシロン」参加。句集『犬の眉』(2014年・現代俳句協会)、『中くらゐの町』(2023年・ふらんす堂)。第67回角川俳句賞。YouTube 「俳句ファンちゃんねる」
■西原天気 さいばら・てんき
■上田信治 うえだ・しんじ
1961年生れ。共著『超新撰21』(2010)『虚子に学ぶ俳句365日』(2011)共編『俳コレ』(2012)ほか。句集『リボン』(2017)エッセイ『成分表』(2022)。
■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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2026-06-07
【句集を読む】舟への憧れ 山岸由佳『丈夫な紙』評 福田若之
【句集を読む】
舟への憧れ
山岸由佳『丈夫な紙』評
福田若之
『豆の木』第27号(2023年6月)より転載
『丈夫な紙』という書名は、見たところ、なんとなく無骨な感じがする。その感じは、たとえば、本書のなかに収められた八つの章の表題――「スピーカー」、「見えない硝子」、「ボクシングジム」、「歩行者天国」、「幻の羽子板」、「一輪草の夜」、「十一月の木」、「鳩のゆめ」そして「手から手へ」――と比べてみても、明らかだろう。さて、この書名が無骨に感じられるのはどうしてか。それは、おそらく、丈夫な紙という言葉が、多くの場合、何かの素材として紙を扱うひとのものだということによる。この言葉は、次のとおり句に書きこまれている。
黄のカンナ丈夫な紙を探してゐる
何かのために、丈夫な紙が探しもとめられている。要するに、この書名は本来何かの素材を指し示すはずのもので、ただし、その素材が何をかたちづくるかについては、さしあたり読み手には知るよしもない。だから、この書名は読み手に無骨な印象を与えるとともに、何のための紙なのか、何のために丈夫でなければならないのか、という問いをもたらす。句集などというのは、どんな句を載せようと、畢竟、丈夫な紙の束にすぎない、というイロニーだろうか。しかし、集められたくさぐさの句は、そうした皮肉な自己言及の文脈を帯びてはいない。
問いは宙づりのまま、しだいに、ひとつの象徴的なイメージが、くりかえしのうちに際立ちはじめる。水だ。
まず、季題としての水を書いた句がある。
草に風ロープ張られてゐる泉
春水の揺れゐし奥の歯にちから
水温む誰も死なない陽だまりの
噴水をはなれぬ人の長き髪
読み手は、これらの句に、それぞれの季の水の表情を思い描くだろう。とくに表情がはっきりしているのは、三句目にあげた水温むの句だと思う。誰も死なない陽だまりという言葉に、目のくらむようなまばゆさとあたたかさを感じる。そのまばゆさ、そのあたたかさが、ふっと死ということを呼びおこす。誰も死なないという言葉は、死を思うときにしか湧いてこない。
つぎに、季題とは別に水を書いた句がある。
満月の浅瀬は砂を吐きつづけ
炎天の水を跨ぎて人に会ふ
水音の氷を渡り城の跡
躑躅ほろほろ命日の階段にみづ
雉鳴いて腐りたる水地に馴染む
藻の花のひらいて水の忘れゆく
これらの句は、水そのものを指し示す言葉が、はっきりと書かれている。取りあわせによって、水がそれぞれの表情を浮かびあがらせている。
さらにまた、水そのものが名指されなくとも、書かれた景のうちに、水のあることが感じられる句もある。
排水溝ひゆうと告げたる檸檬かな
雪の果肥りつづける魚の棲み
ひかる雲あり蟷螂の濡れてをり
さくらんぼ洗ふ時計のあかるさを
これらの句において、水は、排水溝を鳴らしたり、魚が息づいたり、かまきりを濡らしたり、さくらんぼの実をきれいにしたりすることで、その存在を示している。
この句集にみられる水の表情は、このとおりさまざまだ。けれども、読みかえすにつれて、とりわけひとつの表情が、くりかえし書かれていることに気づかされる。
こゑ消えてプールに映る誰かの家
足元のみづの揺らいでリラの花
水底を覗き青葉に囲まるる
とんぼうの水面に鳥居さざなみの
雪やみし水面に映る赤ん坊
潦の木々雉よあらはれよ
映すとはっきり書いてある場合も、そうでない場合もあるけれども、水は、くりかえし、そのつど異なる何かを映してみせる。平らでない、たったひとしずくの水さえもが、外界を映しだす――《一滴の水に映つてゐる九月》。とりわけ目を惹いたのは《朝焼のもうすぐ終はる水たまり》という句だ。空の刻一刻の色合いの移りかわりが水に映りこむさまを、この句は情感をこめて指し示す。
水の表面への関心は、水のうえに現れるさまざまのものへの関心とも結びつくだろう。
あたたかに鳥の流るる夜の川
鴨流れ笛の音流れ遅き日を
水のうへのこゑすれちがふ桜かな
この句集の主体にとって、水面という場は、ものがただ浮かぶところではない。水面にあるものはたえず移ろっていく。くりかえしのうちにさえ、そのつど生まれなおすものがある――《繰り返し繰りかへし海月となりぬ》。そして、この移ろいは、もちろん、水そのものが流れ、湧き、動いていくということに由来する。
雪原の真下をとほる水の音
タンバリン鳴らす造り滝の前
石を生む体の睡り泉湧く
湧水の小石の力花菖蒲
犬抱いて降りゆく春の川音へ
つばくらめ川を下つてゆけば夜
金色の川越ゆ受験生の頰
雪原の句が示すとおり、流れは潜伏することもある。だから、《ストローを上る果肉や成人の日》という句なども、やはり水にのって流れるものを描いた句と捉えることができる。海月の句から思われるとおり、この流れは、去るばかりではなく、巡るものだ。雨や雪が、この水の流転のうちに組みこまれている。ほんとうに、ほんとうにくりかえし、水が降りそそぐ。ときには、雨はじかに見えていないかもしれない――《地上は雨誰彼のこゑ秋灯》。地上の音や声によって、見えていない雨を知ることがある。雨は、ほんとうにかすかなこともある――《赤い羽根濡れないほどの雨の降る》。そうかと思えば、ひどく降ることもある――《カンナから土砂降りの橋見えてゐる》。急なこともある――《驟雨来る猫の背骨を撫でながら》。広く降ることもある――《藤の花見下ろす雨のひろびろと》。もちろん、雨を感じるのは外ばかりではない――《秋の蚊と入り来し雨の男かな》。ときには、雨という名で呼ばれないこともある――《蟋蟀のこゑの空より崖に水》。せつなく感じられることがある――《雨音のつたはる手擦星まつり》。懐かしく感じられることがある――《大根を煮てこの町に雨の降る》。甘やかに感じられることがある――《枇杷を剝く男の指の甘え雨》。そして、ぬくもりを感じさせてくれることもある――《しろき根のあらはに雨のあたたかし》。雨はそうして、やがて止む――《蟋蟀の木のまつすぐに雨上がる》。
冬や春には、雪のこともある。さまざまの場所に、さまざまのものに雪は降る。
デパートを出て宝くじ売場の雪
鉄橋の向うは母の春の雪
透明な洗濯ばさみ雪降るなか
子供服売場こどものゐない雪
傘越しに階段見ゆる春の雪
雪柳に雪積もる日や客ひとり
もちろん、積もった雪は、やがては融けて水となって流れはじめるだろう――《雪解けの鴉の瞳深く塗る》。雨として、また雪として、降りようはほんとうにさまざまだけれども、地上に降りそそぐ水が、やがて地を伝わり、泉となり、川となって、流れていく。
姿を変えながら句集をゆく水とともに、水のうえを流れるもの、その象徴として、舟という語が姿をあらわす。
舟は花つめたい顔の揺れながら
舟として立ちあらわれる花とは、つまり花筏のことだろう。顔は、花びらが流れていく水面に映って、つめたく揺れている。
ところで、花といえば、こんな句もある。
紙の花飾り雨水の一日暮れ
二十四節季の雨水は、二月の半ば過ぎ、降るものが雪から雨に変わり、地上でも雪解けがはじまるころだ。まさしく水にまつわる季の移ろいのなかに紙の花飾りがある。もちろん、花飾りという言葉が呼びおこす花の姿は桜とは限らない。けれども、水の動きはじめる早春において、紙の花飾りは、まことの春の花を待つ気分とともにある。
一方で紙は花の姿をとることができ、さらにまた、花は舟の姿をとることができる。それなら、紙は舟の材料にもなりうるはずだ。そういえば、丈夫な紙は水に浮く。
もちろん、ただ言葉遊びだけでこうした評を書いているわけではない。舟という語は、この句集に二度、ただし、見立てとしてのみ姿をあらわす。二度目は《毛布かけ尖れる耳の舟となり》で、眠るひとの片耳を、毛布のうえに浮かんだ一艘の舟に見立てる。見立てのくりかえしと実物の不在は、舟を憧れのものとして浮かびあがらせる。この憧れは、海という広がりが、眺める先にありながら踏みこみがたい場として描かれていることにも関わるだろう。
液晶の眩しき海へ秋の蚊は
凩に振るポラロイド写真の海
金網に冬の音あり海のあり
水に耐えうる紙は、望みを文字として載せもする――《欲しきもの書くサイダーに濡れし紙》。紙は言葉を運ぶ舟にもなる。そして、書くことは、象徴的に、水のうえをゆくことへの憧れと結びつけられてもいる――《文字を書く速さ海鵜の飛ぶ迅さ》。このとき、『丈夫な紙』という書名は、句集を即物的に紙の束へと還元するイロニーを超えて、それを舟に見立てるユーモアとして働くことになる。書物=舟は、やはり夢のように、かなた先にその場を占める――《蒲団からとほき本棚とほき川》。
舟への憧れは、届くことへの願いでもある。だから、数枚の硬貨さえもが、手から手へ渡るとき、この句集ではあんなにもうつくしい。
手から手へ硬貨ながるる蛍の夜
そう、流れていく。
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2026-05-24
後記+プロフィール996
後記 ◆ 福田若之
『週刊俳句』第996号をお届けします。あと4回で第1000号。でも、個人的には、1000よりもむしろ999のほうにロマンスを感じるところもあります。銀河鉄道。
●
それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.996/2026-5-24 profile
■鈴木茂雄 すずき・しげお
堺市在住。「Picnic」「KoteKote-句-Love」所属。Twitter「ハイク・カプセル」
■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
https://toremoro.sakura.ne.jp
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
https://toremoro.sakura.ne.jp
■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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2026-04-19
後記+プロフィール991
後記 ◆ 福田若之
ほんとうにありがたいことというのは、ただただありがたいというより、むしろ新鮮な困惑に満ちているのかもしれません。
●
それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.991/2026-4-19 profile
■鈴木茂雄 すずき・しげお
堺市在住。「Picnic」「KoteKote-句-Love」所属。Twitter「ハイク・カプセル」
■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
https://toremoro.sakura.ne.jp
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
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■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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2026-03-15
後記+プロフィール986
後記 ◆ 福田若之
乾電池というのは、もちろんそれ自体がたいした発明に違いないのですが、あれらを嵌めこむソケットの構造もじつにすばらしいと思うのです。
●
それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.986/2026-3-15 profile
■宮﨑莉々香 みやざき・りりか
1996年高知生まれ。「オルガン」メンバー。
■鈴木茂雄 すずき・しげお
堺市在住。「Picnic」「KoteKote-句-Love」所属。Twitter「ハイク・カプセル」
■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
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1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
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■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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2026-02-08
後記+プロフィール981
後記 ◆ 福田若之
天気予報に雪だるまが立っているのは、雪が降るだろうというだけで、雪だるまが作れるくらい積もるだろうという意味では必ずしもない。それでも、絵だけで、なんだかちょっと遊びの心地がしてくるものです。
●
それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.981/2026-2-8 profile
■小笠原鳥類 おがさわら・ちょうるい
1977年生まれ。現代詩文庫『小笠原鳥類詩集』(2016)、詩集『おお、限りなく懐かしい動物たち』(2025)など、評論集『吉岡実を読め!』(2024)、『現代詩が好きだ』(2024)。『新撰21』(2009)に佐藤文香小論。
ブログ「×小笠原鳥類」 http://tomo-dati.jugem.jp/
■三宅桃子 みやけ・ももこ
2005年より、こしのゆみこ主催の「土やき研究会」で作陶を始める。
2013年より俳句を始める。超結社「豆の木」を中心に作句。
2016年〜現在「陸」会員。
■鈴木茂雄 すずき・しげお
堺市在住。「Picnic」「KoteKote-句-Love」所属。Twitter「ハイク・カプセル」
■岡田由季 おかだ・ゆき
1966年生まれ。「炎環」同人。「豆の木」「ユプシロン」参加。句集『犬の眉』(2014年・現代俳句協会)、『中くらゐの町』(2023年・ふらんす堂)。第67回角川俳句賞。YouTube 「俳句ファンちゃんねる」
■上田信治 うえだ・しんじ
1961年生れ。句集『リボン』(2017)エッセイ『成分表』(2022)。
■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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2025-12-28
週刊俳句2025年アンソロジー 12名12句
週刊俳句2025年アンソロジー
12名12句喉奥に未遂の咳や終電車 西生ゆかり 第926号
さざなみにプールの壁が剥がれて浮く 知念ひなた 第926号
濡れた手で就業規則さわっちゃった 暮田真名 第927号
足跡とサーフィン摺つてゆく跡と 松田晴貴 第936号
しかしぼろいな梅雨にはびこる言葉の塵 おおにしなお 第939号
合図なくたおれて鹿は孕んでいた 超文学宣言 第940号
掛軸を退かせば穴や蚊遣香 竹岡佐緒理 第942号
日永とは鯉一つゐる町の川 上田信治 第944号
尨犬の浮腫みて無口雪を欺く ミテイナリコ 第945号
さざなみの昼の胡瓜のスープかな 彌榮浩樹 第947号
ゆふがほや睫毛濡れたる死者生者 押見げばげば 第953号
そこかしこ風の衣擦れ牡丹園 細川洋子 第954号
(福田若之・謹撰)
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後記+プロフィール 975
後記 ◆ 福田若之
2025年は一度なのに、その忘年会は何度もある。
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それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。よいお年を。
no.975/2025-12-28 profile
■岡田由季 おかだ・ゆき
1966年生まれ。「炎環」同人。「豆の木」「ユプシロン」参加。句集『犬の眉』(2014年・現代俳句協会)、『中くらゐの町』(2023年・ふらんす堂)。第67回角川俳句賞。YouTube 「俳句ファンちゃんねる」
■西原天気 さいばら・てんき
■上田信治 うえだ・しんじ
1961年生れ。共著『超新撰21』(2010)『虚子に学ぶ俳句365日』(2011)共編『俳コレ』(2012)ほか。句集『リボン』(2017)エッセイ『成分表』(2022)。
1961年生れ。共著『超新撰21』(2010)『虚子に学ぶ俳句365日』(2011)共編『俳コレ』(2012)ほか。句集『リボン』(2017)エッセイ『成分表』(2022)。
■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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2025-11-23
後記+プロフィール 970
後記 ◆ 福田若之
そういえば、2025年ってことは、Windows95が出てから30年経つってことなんですね。
30年くらいしてから返信する電子メールがあっても、いいかもしれない。そのくらいの気持ちじゃないと無理なときもあります。
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それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。
no.970/2025-11-23 profile
■鈴木茂雄 すずき・しげお
堺市在住。「Picnic」「KoteKote-句-Love」所属。Twitter「ハイク・カプセル」http://twitter.com/haiku_capsule
■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年 第0句集「祝日たちのために(港の人)」山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
https://toremoro.sakura.ne.jp
https://toremoro.sakura.ne.jp
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