俳句タロット2026
福田若之×千倉由穂〔後篇〕
記事化:岸田祐子
露草の色滲ませてゆくチャイム 千倉由穂
1枚目「ソードの8」・2枚目「世界」・3枚目「ペンタクルの9」
岸田祐子●おっ! なんと、さっきと同じカードがでた。あんなにシャッフルしたのに。
福田若之●残りの2枚は全然違う絵柄ですね。
祐子●2枚目のカードは大アルカナです。一般的に大アルカナは人生の大きな出来事や本質を表すカードと言われています。で、小アルカナの方は、もっと細いこと、日々の具体的な出来事を表すと言われています。さっきの「手書きの@が細胞みたいで雨で春で」の句では、小アルカナのカードしか出てきませんでしたが、今回は大アルカナが出ました。この世界、ザ・ワールドというカードは大アルカナの一番最後21番目のカードです。おみくじで言ったら大吉みたいな感じです。だけど、1枚目に出たカード、ソードの8が痛い。
若之●このカード、すごく不穏な感じがします。
祐子●身動きも取れないし、目隠しもされています。
千倉由穂●自分自身の占いで出てきたらどうしようって思っちゃう。
祐子●ただ、まぁ、数字が8だから。もうすぐ終るって感じだと思うのだけど。
由穂●10が終わりですか?
祐子●そうですね。小アルカナの数字のカードは1から10までで、10が最後の数字です。露草が生えている場所って沼地みたいなところだったりするのかしら? このカード、俳句を占っているのでなかったら、私なら少しおやすみしてみてくださいとか、急がないでくださいっていうかもしれないです。
若之●地面が少し濡れていますね。地面のところだけ見ると露草っぽさはあるな。
祐子●あと、洋服の色が青ですね。露草の色。
由穂●背景にあるお城の色も露草っぽいです。
祐子●ソードの8ではない2枚のカードはどちらもポジティブなカードです。なんか、露草という小さくて儚げな花に対して喜びが大きすぎる感じがあるんですよね。うーん、どう読むんだろう。世界のカードは大吉だし、ペンタクルの9は収穫を喜ぶカードですし。
若之●放課後なのかな。チャイムってその時間の区切りが何かの意味を持つから知らせるわけで、それに縛られる側面があるじゃないですか。学校生活なら学校生活の規則があって。
祐子●学校が嫌なのかな?
若之●嫌なのかどうかは分からないけれど、なんにせよそれに縛られてるという側面がある。
祐子●チャイムが鳴るまでそこに居なければならないとか。学校じゃなくて会社でも始業とか終業時にチャイムが鳴るところもありますよね。
西原天気●昼休みとかね。チャイムって昼休みのイメージない?
若之●イメージとしてあるのは朝の始業のチャイムと昼休みと終業なり放課後のチャイム。あ、でも、どうなんだろう。カードベースで読むとソードの8があるので縛られているという点で学校や会社を思い浮かべますけど俳句からイメージすると夕方5時のチャイムとかそういう感じの気もするな。夕空の色合いとか。そっちにゆく方が句の読みとしては正統な気がする。
祐子●どっちにしろ何かから解放されるチャイムなのかもしれないですね。ソードの8は、今はとらわれているけれどいずれは解放されるってカードだと思うのです。あと、縛られては居ますけど足は動かせますし、花も咲いていて救いがある感じがします。もう少ししたらこの状況から抜け出せるという雰囲気はあるように思います。
由穂●殺伐とはしているのですけれど、周りの環境はそこまでは怖くはない。花も咲いているし。
若之●ただ、パッと見るとすごくインパクトのある絵ですよね。
天気●お城が遠くに見えているんだね。
祐子●露草というところで見ると、世界のカードも真ん中の猫の楕円で囲まれた部分の青が濃くて露草っぽいですし、ソードの8の猫が着ている洋服も青だし、ペンタクルの9も青空なのでどのカードにも露草の色の青があるなと思います。
由穂●全てのカードに青色が入っているんですね。
若之●ですね。
祐子●露草は「露」とありますから水のイメージもありますし、滲ませてというところにも水のイメージがあるなと思います。
由穂●自分の句だと、なんだかコメントするの難しくなりますね。
若之●そうそう。結構、難しいんですよ。これ。どこまで言っていいんだろうみたいな。
由穂●説明しちゃいそうになるけれど、説明すると鑑賞を狭めてしまいそう。露草って、自分で作っておいてなんですけど、いつ頃閉じるんでしたっけ?
祐子●露草って朝に咲くんじゃないの? 違ったっけ?
若之●あれは時間の花なんですか? そもそも。
祐子●わからない。
若之●わりとずーっと咲いているイメージがあるけど。
祐子●ずっと咲いていましたっけ?
若之●いや、わからないです。
祐子●みんな花に詳しくないですね(笑)
若之●花期自体はめちゃくちゃ長いですよね。ずーっと咲いている。
祐子●秋の季題の花だけれど夏から咲いていると思う。
由穂●あ、そうだ。朝顔と同じで昼には萎むんだった。
若之●あー、そうなんだ。じゃあ、放課後ではないな。
祐子●咲いている時間が短いということは、先が見えているというか、ずっとは続かないということがあるのかなあ。ペンタクルの9をどう読むのかなと思っちゃう。チャイムって鐘の音なのかな? 私のイメージでは「キーンコーンカーンコーン」みたいな音なのですけれど。
若之●そうですね。僕もパッとイメージしたのはその音でしたね。
祐子●そうすると金属の音なのかな。コインは金属ですね。
若之●そうかー、なんか全然、午後に咲いているのを見たことがあるような気がしているけれど。
祐子●でも、咲いているんじゃないですか。朝顔も花が残っていることがあるじゃないですか。あと、この後にある葡萄が薄目で見ると露草に見えなくもないかも。
若之●時期は重なりますよね。葡萄と露草は。
祐子●それから、この世界。大吉のカードのことを思うと、チャイムが鳴るのが待ち遠しいとかなのでしょうか。嬉しい連絡。
若之●なんか、昼休みの感じはありますね。
祐子●世界は大アルカナの最後のカードなので「上がり」みたいな感じがあります。
若之●この周りを囲んでいる緑色のものは何ですか?
由穂●あ、ここに書いてある。 マンドルラ?
若之●「楕円形の植物の輪は、キリスト教美術において、神を描く時の背景として用いられる」。マンドルラはイタリア語でアーモンド形を意味するのだそうです。四隅に描かれているものは、本来は4種の生き物だそうですけど、このカードでは全部猫なんだね。
天気●ああ、これね。牛と人、これ、人かな?
若之●人とワシとライオン。「ひとつのピークに到達する直前である」と、解説書にある。昼休みですね。
由穂●かつて生徒だった頃、昼休みって嬉しいものでしたよね。
祐子●午前中の授業に苦手なものが多かったんですかね。学校じゃなかったとしても抑圧されるような時間があって。
若之●きっとすごく美味しいお弁当があるんですよ。美味しい給食とか。
祐子●チャイムというとどうしても学校を思い出しますね。そして、学校だと思うと露草がいいですね。薔薇の花などより露草には学校らしさがあります。
若之●校舎の影とかのちょっと湿ったところに咲いているイメージがあります。
由穂●確かに。ソードの8の足元にも水たまりがあって湿っていますね。
祐子●相当、午前中が辛いんでしょうね。
一同●あははははは。
天気●どのカードのこと? ソードの8? 辛いのか、あるいは退屈なのか。
祐子●あ、退屈。それもありますね。目隠しされているから景色も見えないですしね。
天気●興味が閉じ込められている退屈さ。授業がそうだよね。ちゃんと受けていたら窓の外くらいしか見えない。チャイムって他の音よりも染み渡る感じがありますよね。
祐子●時間が終わったという感じがあります。
天気●音色が空とか空気に染み渡る感じ。だんだん、すごく良い句に感じてきた。
祐子●「色滲ませてゆく」とありますが、色だけではなく音も滲んでゆく。
天気●チャイムってそういう作用があるような気がするな。
若之●露草の色って、わりと色合い自体は濃くて重たいといえば重たい感じ。ただ、それが滲むと明るくて発色の良い色、それこそ世界の背景にある水色みたいな色になる気がします。重さ・暗さから明るさへの転換みたいなイメージで読めそうな気はします。
祐子●露草の花の色はペンタクルの9の葡萄の色合いに似ていますよね。
若之●そうですね。花の色合いは葡萄の色みたいですね。
祐子●それが滲んでくるともっと明るい青になる。チャイムにも色々あって、曲が流れるようなものもあると思うのですが、ペンタクルの9の金貨を見ると、キーンコーンカーンコーンという金属音なのかなと思います。それからさっき占った時もそうだったんですけれど、今回も感情が管轄のカップのカードが出ていないのです。この句は、情緒のある景色だと思うのですが、そんなに湿っぽくないのかなとも。「滲ませて」と言われると情感がたっぷりな感じがありますが情感に訴えてゆくということとは少し離れているのかなとカードを見ていると思います。
若之●実際、句の仕立てとしても、感情がどっとあからさまに出てくるというタイプの句ではないから。
天気●感傷は感じるよ。
若之●そうですね。センチメンタルな感じというか。
天気●チャイムと露草の属性かもね。やっぱり、露草の色とか小ささがチャイムと合わさると切なさや感傷は感じるね。それこそ染み入る感じの。
若之●いいですよね。
祐子●染み入る感じや感傷ということでは、ソードの8のカードにそれを感じるかなあ。
天気●ソードの8は解説書ではどう説明されているの? 他のカードの比べて絵柄が明示的じゃないですか。
祐子●身動き取れないですよ、みたいな説明です。「女性が目隠しをされて縛られている。おまけに、剣に囲まれて身動きが取れない、にっちもさっちもいかない状況だ。このイメージは、占いに向き合う時の多くの状況にあてはまるのではないだろうか」とあります。
天気●占いをしてもらいたい時は、いつでも、そういう時ですよね。
祐子●どうしていいかわからないっていう状態なんでしょうね。
天気●でも、解説書に書かれていることって、いかにも占いであり、サジェスチョン的で、あんまり俳句の読みには反映させたくないですよね。まぁ、普通そうなるよね。占いって本当は実用だものね。なんか、おみくじみたいなことが書いてある。
若之●あー、そうですよね。こっちの解説書には「八方塞がりの沼地」って書いてあります。
由穂●水たまりが彼女が流した涙となっている。
若之●本当だ。涙でできた沼地って書いてありますよ。
由穂●足場が固まっていない感じ。
天気●この句が?
由穂●テーマが、でしょうか。
若之●なるほど、解説書によるとソードに情報というようなことを読み解くんですね。さっきの句の時に出てきたナイトもそうですけれど。周りに情報が溢れていてかえって身動きが取れない。
祐子●それ、授業中という感じがありますね。
若之●しかも目隠しをされちゃっているから結局、この人はその情報を受け取れない。そういうことみたいです。
天気●露草にもチャイムにも含意が多い。その意味の他に副次的にくっついてくる意味が多いような気がしますよね。チャイムというだけでなんか色々なものを呼び寄せるじゃないですか。さっき話したみたいな。それも割合、若い時のことを思い出すし。露草も他の花に比べて含意があるような気がする。
若之●そうですね。
祐子●チャイムというと私は学校を思い出します。
天気●露草にも道端みたいなイメージがある。学校の周りとか帰り道とか。僕はすぐに帰り道をイメージしましたね。帰り道の路傍。
祐子●あと、細い道を思い出します。広い大通りとかではなくて。
若之●うん、うん、うん。
天気●露草には地域的なこともあるのかな。仙台では露草はよく見かけた?
由穂●ありましたね。
天気●僕は関西なんだけど普通にものすごく頻繁に目にする花だった。
由穂●群生しますよね。一輪だけではなくて。
祐子●ただ、露草も見つけるまでは他の草に紛れてあまり見つからないのに、一度見つけるとたくさん生えているなと思うことが多いです。子供の頃は花を摘んで水につけて色水を作ったりしていました。
由穂●そうそう。私もしていました。
祐子●だから水と親しい感じがします。
天気●字も「露」だしね。日本語の「露」は含意がものすごく豊富だよね。
若之●和歌の文脈が全部乗っかってくるから。
天気●露の世、露の身。
祐子●涙とか。
天気●儚いもの。
祐子●露草の花も小さいですしね。さっきでた情報が溢れているという話、それを思うと情報に溺れているという考え方もできるのかな。溺れている人は小さい感じがするので露草の花の大きさとリンクするようにも思います。断定するのもあれですが、どんどん授業という気がしてきます。
天気●まぁ、それが一番のイメージかね。
若之●ですかね。
由穂●露草は、さっき話した、色水遊びをした花という印象が強いんですよ。だから「滲ませて」という言葉が出てきたのですけれど。その遊びの時に出てくる色がカードに出てきたなっていう。
若之●3枚のカードに共通する青ですね。
由穂●あと、色水にクエン酸を足すと紫色にもなる。そういう遊びをやっていたその色なのですよ。だからカードの色が露草っぽいなと思っていました。
祐子●確かに、色はそうですね。露草から色水を作って遊ぶとなると結構な量の露草が必要ですよね。収穫するという言い方はおかしいけれど、露草の花をたくさん集める。今の話を聞いて収穫という意味でペンタクルの9に関係してるかなと思います。
若之●たくさん生えているところからたくさん取るんですよね。8と9は近い数字だから、そのぐらいの数なんだなって。
祐子●授業中に色水作りたいなとか思っているのかな。でも、そんなストーリーに寄せる必要はないですね。あと、大アルカナの世界が出ているということは綺麗な色なのでしょうね。もう忘れてしまったけれど、色水を作るとき、あまり綺麗な色に出ないってこともありましたっけ? 失敗とかはないのでしょうか。
由穂●どうでしたかね。色水はどうかなぁ。長く置いておくと澱んでしまったりすることもあると思うのですが、露草自体は萎んでくしゃくしゃとなってしまっても青さは残っている。
若之●たぶん、「色滲ませてゆく」だから色が出た時の一番綺麗な色ですよね。
祐子●ちょうど一番いいところ、ピークですね。
若之●フレッシュな青さなのではないかな。
祐子●もし、かなり感傷的に寄せて読むとしたら、さっきも露の身とか露の世の話が出ましたけれど、悲しいことがあるというか、涙の色というか、そういう色が滲んでいてそれがチャイムによってリセットされる。そういうストーリーとしてもこのカードを読むことができるのかなとは思います。自分が露草みたいに小さくて儚い身だと。私、あまり俳句をそういう雰囲気で読むことがないので、自分で言っていて変な感じですが。俳句を鑑賞する時にストーリー仕立てにして読んだりすることはありますか?
由穂●うん。結構します。
若之●どうかな。句によります。
由穂●鑑賞する時、言葉にする時は違うかもしれないのですが頭の中ではストーリーを仕立ててしまうことはあります。
天気●この句でも?
由穂●この句はちょっと自作すぎて。
祐子●私は、この句だけを読んだ時には、今言った自分が露草のように小さい身なのだというようなことは思わなかったのですが、今回のようなカードが出てくると、そういった心情みたいなものに寄せてしまいたくなるところはあります。
天気●背景を呼び寄せるのかな。句だけ読むなら、人は全く出てこなくて、景色だけ。
祐子●私も句だけならそうです。
天気●でも、こういうカードが出てくると……というわけ?
祐子●そうです。なんていうのかな、ちょっと出てきたカードがドラマチックすぎるんですよね。チャイムの音がするなっていうだけの景色にしては。どうしても少しストーリーを考えたくなってしまう。
天気●例えば、句が出てくるまでの経緯とか背景はドラマチックだけど、句として出てきた景はそういうものではなく、すっとムードを詠んだものとなっている、ということですね。
祐子●そうです、そう言いたかった。ありがとうございます。
天気●作者のドラマをカードが暴いたということだ。
祐子●作者本人なのかどうかはわからないけれど。
若之●句の主体が。
天気●この句が出来上がるまでの経緯ね。
祐子●そうなのかなって。
若之●そうですよね。この句だけパッと渡されたら音の質感の方に話は終始するもんな。音の質感と色との。だから、こういう句を読むとき、普通の鑑賞だと、ある種の共感覚みたいな方に向かっていくのだけれど。背景の話をつけないとカードとの折り合いがつかない。
祐子●その時に露草というのが、さっき天気さんも言っていましたけれど色々な意味を持ってきてしまう。単に咲いているというだけではない他の意味を連れてきてしまう。
天気●季語ってまあ、そういうものなのだけど。ただ、露草は季語を離れても含意が多いということはあるよね。尚且つ皆が知っていてイメージしやすい。わりあい強力なモチーフというか季語だよね。けど、あんまり使わないよね。
若之●下五に置きにくいんですよ。だから何かと取り合わせるとなった時にはちょっと置きにくい。
祐子●私は露草の句はあまり作ったことがないです。結構、難しい。
天気●「露草や」とできるでしょ。
若之●できるんですけど、露草はキャラが強いので上五に置くと露草の句になりがち。
天気●なるほどね。伝統的な季題を詠むみたいになっちゃうんだ。でも、この句は季題を詠んでいると言えるよね。
若之●この句はわりとそうですよね。仕立てとしては。
天気●チャイムが主眼だけれど季題には沿っている。ちょっと俳句タロットからは離れちゃうけど句会に出した時にこの句の反応はどうだった?
由穂●句会の皆さんの反応ってことですか?
天気●はい。僕はうまい句だと思う。ムードの句だけれどなんか好きな句。だからきっと句会で出たら採ると思う。でも、ムードの句は句会での反応は? これ句会に出したんですか?
由穂●出したと思います。この句に限らず、共感覚みたいな句は時々作ることがあるのですが、わからないという人もいるし、いいなという人もいて、好みがはっきり分かれてしまいます。
天気●ムードの句はそうなのかな。具体的なことを詠んでいないし、うまく描写した句でもない。ムードの句というのはそうなるんだね。そこは個人的に興味があった。でも、取り合わせとかバランスとか書き方によって気に入る、気に入らないというのがあるんですよね。僕は俳句のテクスチャーを重視するからこの句にはテクスチャーがある。別に描写している句ではないけれど質感があるから好きな句。
由穂●テクスチャーとか質感とかムードが良いと思った時に、説明する言葉を自分が持っていないことがあって。そういう時に選句の難しさを感じます。句をとって発言を求められたらどうしようというブレが生じる。句会という場では。
天気●それはね、どんどん無くした方がいいですよ。
由穂●そうですよね。
天気●それこそ、俳句のというか句会の本末転倒だと思う。そこは「テクスチャーが良い」でいいんじゃないの。
若之●うん。それでいいです。
由穂●言語化ができない外側のいいと思った感覚を掴んだらその句はとった方がいいんですよね。
天気●だって、「質感」と言語化できているのだもの。でも質感を質感というだけで、それがザラザラしているとかネチョネチョしているとかではないから。言葉の質感だから。質感と言えばそれでいいんじゃないかな。
祐子●そういう時、「なんかいいと思いました」って言ってしまう。
若之●いや、いいんですよ。いいんですよ。
天気●「好き」とだけ言っておけばとられた方も喜ぶ。良いとか上手いとか言われるより、好きな句って言われるのが一番嬉しい。上手いと思うけど好きにはなれないって言われても嬉しくない。
祐子●そんな風には言われたくないなー。
若之●そういうこともありますよ。
天気●そういう作風だってあるじゃないですか。頑張って上手に作っているけど、好きかどうかって言われると好きじゃないなって。昔からそれは問題でね、もっとはっきり本末転倒なケースもありますよ。当てられた時に説明のしようがないからとらなかったとかね。とっとけばいいのに。
由穂●そうですよね。この句とりたいけど、ちょっとどうコメントしようかなというところで逡巡してしまうことがあって。いや、最終的にはとるんですけどね。
天気●うまくコメントするということを考えすぎなのかも。それは個人がというより句会の雰囲気もありますね。
若之●ですね。
天気●本当は選句の時点でほとんど終わっている。鑑賞以前にとっちゃうという句もあるから。選んでるというところで終わっている。
若之●句会の話になってしまいますけれど、鑑賞しにくい句ほど点は入れてあげたほうが良いんですよ。とりあえず、これはいい句ですよっていうことを伝えるには点を入れるしかない。話しにくい句ほどそうなんだよな。本当は。
天気●自分の一票が重要になってくる。これは誰が話しても同じ褒め方になるという句は、ほっといてもいいわけで。違う言い方をすれば、どこに出しても恥ずかしくない句は別にとらなくてもよい。外に出したら恥ずかしいっていう句がこの場での意味になる場合があるからとる。でも、外に出しちゃだめよ。
若之●あはははは。外に出しちゃだめなんだ。話を少し戻すと、タロットカードを使って鑑賞すると、この句でそんな読み筋があるんだっていう読み方をしましたね。
祐子●だって、出たカードがドラマチックすぎるんだもの。
天気●でも、読む時に人を持ってこないと気が済まないという読み方をする人もいますよ。この句も、露草をどこで誰が見ているのかみたいなね。
若之●人が読みに入ってくる余地は大いにある。「滲ませてゆく」はかなり人間の気配がする表現ではあるから。チャイムも人間の世の中のものだし。そういう意味では人間が入る余地があるから、この読み方も成り立っている感じはする。
天気●この句には聴覚と視覚がかなりしっかり入っている。
祐子●句だけを読んだ時は、露草の色が水に溶けて滲んでゆくということと、チャイムの音が広がってふわーっとしてゆくことだけを感じました。
若之●色と音がオーバーラップしてゆく。
祐子●人がいるのかもしれないけれどあまり人の気配を意識しないでいました。
若之●そこはすごく同意です。そうなはずなんです。滲ませてゆくとかチャイムにもそこまで比重をかけた読みはしない。チャイムに比重をかけないというよりは、チャイムが人間世間のものだということに比重をかけないのだけれど。タロットカードがあると、そっちがむしろ際立ってきて、その読み筋が案外この句でも成り立つということを教えてくれる。
祐子●それが良いことなのかどうかはよくわからないけれど。
若之●一周回っていいのかも。普通だと、俳句は人間世間にずぶずぶになっている感覚をちょっと違った角度から捉え返すためにあって、たとえばこの句なら、露草の色が滲んでゆくところにチャイムがオーバーラップするところで、チャイムが普段の日常の意味合いではなくて音そのものとして感じられる。そういう風に、人間の文脈から切り離すということが俳句の一つの面白みなのだけれど、カードがあると、むしろ、我々は俳句を人間の文脈から切り離して読みがちですよねってなって、もう一回、人間世間に引き戻した時にどうなるのって話になりやすい感じがします。普段の俳句の読み方とちょっと違っている。
由穂●すごく俗的というか、チャイムってなんで鳴るんだっけみたいなところに立ち返って考えることになった。そこから切り離して俳句にしているはずなのに。
若之●俳句という枠組みによって自動化されているものを異化したのだけれど、俳句の読みにおいて異化の仕方が自動化されているから、タロットを使って、もう一回、その異化の仕方を異化しましょうみたいな。そういう話になっている。
由穂●そもそもの着想みたいなを話してみてもいいですか。句会で名前を開けた後に「こういう思いで作りました」っていうとちょっと恥ずかしくなってしまうやつを言います。先ほどチャイムの時間帯の話も出たので、自分でもそうだったと思い出したのですが、私は朝のイメージで詠みました。一時、東北の田舎の方に住んでいたことがあって、朝の6時半か7時くらいに農作業を始める人のためのチャイムというのが鳴るんです。結構、優しい音で一音一音丁寧な朝のチャイム。その村は、朝と正午と夕方にチャイムが鳴るのです。常にチャイムに淡く縛られている感じがあった。
若之●あー、なるほど。
由穂●その朝のチャイムがなった時に、露草という水っぽい滲みやすいものがその音に広がってゆくイメージで作ったのですが、その根底にチャイムがどの場所にいても鳴ってしまうという閉塞感、息苦しさが当時あったので、ソードの8のカードはなるほどと思いました。
若之●農作業だと、もろにペンタクルの9のカードですよね。
由穂●みなさんが鑑賞したのは学校のチャイムでしたけれど、やはりチャイムというものは区切ってくるもの、縛ってくるものというイメージシンボルでもあるのかなと思いました。
天気●時報だね。時報と書いてチャイムとルビだね。
若之●うーん。それは、どうかな。
祐子●そこには何年くらい住んでいたのですか?
由穂●3年間です。でも作ったのはもっとずっと後で、大人になってからです。作り終えてみると着想などは手放してしまうので、聞きながら、あれ、どうやって作ったっけと改めて思い出しました。今回出たカードは着想の部分だったのかなと思います。
(了)

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