2024-04-07

タロット占い×俳句=?

タロット占い×俳句=?

記事化:岸田祐子
補足説明:西原天気


〔前口上:西原天気〕

タロットカードで俳句を占う、と聞いて、頭の中が「?」だらけに。カードを繰るのは岸田祐子さん。こちらのウェブサイトの随所で「占い」が実践されているが、これを見ても、私の頭の中はまだすっきりしない。そこで、実際に目の前でやってもらうことにしました。
2024年3月9日(土)
参加者:細村星一郎、西原天気、太田うさぎ
占う人:岸田祐子
この日、祐子さんに占ってもらう俳句は2句。細村星一郎作と私・西原天気作から、それぞれ1句ずつ。まずは、どの俳句を占うかを決めるわけですが、せっかくだから当季がいい。かつ、偶然の要素があったほうがいい。そこで、私は、『はがきハイク』の既刊から春季のものを3通用意。数字を適当に言ってもらい(2枚の5句目、といった具合)、この句に決まりました。

(な)よねむれ巴芹に水のゆきわたる  西原天気

カードの山から出現したのは、次の3枚。

1枚目「魔術師」・2枚目「女教皇」・3枚目「ペンタクルキング」


祐子●最初からどう読もうかなっていうカードが出ちゃってますけど……。

うさぎ●このカードって王様?

祐子●はい。タロットカードは大アルカナの22枚と小アルカナの56枚で構成されているんです。大アルカナは物事の本質的な意味を象徴するようなカードで小アルカナはもう少し具体的な現実的な世界観を表すカードと言われています。今回出たカードでは魔術師と女教皇が大アルカナ、ペンタクルのキングは小アルカナ、キングだから王様です。

天気●カードに数字が書いてあるのが大アルカナ? このカードは猫の絵なんだね。

祐子●そうです。数字が書いてあるカードが大アルカナ。猫が好きなのでこのカードを使っています。

うさぎ●カードが出てきた位置も関係あるの?真ん中に出てきたらどうかとか。

祐子●このスタイルは私が考えたものなので、位置は決めていません。タロット占いは絶対にこう占わなくてはならないっていう決まりはなくて、自分で決めればいいだけなので占う人や占うことによってスタイルは様々です。例えば、三枚カードを引いて一枚目が過去、二枚目が現在、三枚目を未来というようにすることもあります。

天気●ペンタクルって?

祐子●ペンタクルは金貨です。小アルカナはワンド、ソード、カップ、ペンタクルの四つのスート(シンボル)からできていて、トランプのクラブ、スペード、ハート、ダイヤに対応しています。あと、西洋占星術の火、風、水、土の四つエレメンツにもリンクしています。ペンタクルは物質的なことが管轄です。

天気●土の範疇かな。

祐子●そうです。そうです。

星一郎●トランプの枚数と大アルカナで構成されて78枚ってことですか。

祐子●トランプは一組52枚、小アルカナは一組が56枚だから、全く同じではないけれど似てますよね。一枚目の魔術師は「準備ができています」っていうカードなんです。数字も「1」ですし。カードの絵を見てもらえるとわかると思うのですが、机の上にいろいろな道具がそろっていて、「もうスタートできますよ」というカード。この句は「汝よねむれ」って言っているんですけど、ねむった後に何かが始まるのかなって思いました。

うさぎ●「巴芹に水のゆきわたる」っていうのも始まる感じ、準備ができている感じがあるよね。

祐子●ですよね。二枚目は女教皇というカードで、これは「知性」とか「直観」のカードなんですけど。これどういう風に読めばいいのかな……。

天気●「巴芹」という表記には「知的」な処理がありますよね。「巴芹」という漢字からは中原道夫さんの『巴芹』という句集が思い浮かびます。パセリという表記にはこの漢字を当てはめるとは限らないのだけどね。

祐子●カタカナの場合もありますよね。

天気●カタカナが一般的ですよね。あとこの句の「ねむれ巴芹」までは金子光晴の『ねむれ巴里』なんですよね。「芹」を「里」に変えれば。だから『ねむれ巴里』とか「中原道夫」を入れ込んでいるというところに知的な遊びがある感じがするのかもね。自解になっちゃうけれども。

祐子●なるほど。そっか、そういうことなのかな。

天気●他の句に比べて知的な処理が多いですよ。

祐子●そうなんですね。あともう一つ女教皇のカードはスピリチュアルな感じもあるんです。知的なんですけど言語化できないみたいなところも含まれている。ここからは占いというより私の感想ですが、この句にはちょっとふわっとした不思議なイメージがあると思うので、そこに女教皇の感じがある気がします。三枚目のペンタクルのキングは「上がり」のカードなんです。キングはそのスートの一番最後のカードなので、一旦の結果となるカード。ペンタクルは現実的な利益などを表すので、このパセリがどんどん育ってゆく暗示、水がすごくゆきわたっているのかなって。

一同●あははははは。

天気●雨が降って?

祐子●雨が降っているのかどうかはわからないですけど。

天気●まぁ、二通り考えられるよね。一つは台所で食べる前のパセリを水で洗っている。

うさぎ●植えてあるパセリだとは思わなかったなぁ。

星一郎●僕も使う前に洗っているのかなって思った。

天気●じゃないと畑でねむることになっちゃうからね。

祐子●あ、あの、植木鉢とか。

天気●なるほど。プランター。どっちにしろ食べる手前だね。

祐子●キッチンにパセリの植木鉢があってそれがよく育っちゃったとか。

天気●あはははは。それが3枚目のカードってこと。

祐子●はい。私はこのペンタクルのキングが育ち感を出しているのかなって。

うさぎ●そうすると、寝る子は育つ的な。

祐子●うん、そうじゃないかなって思っちゃった。でも、ちょっと詩的な解釈とは言えないかもしれないけれど。あと、キングは最後のカードなので「結果」の状態と考えると、このパセリはふさっとしている。小さくちょぼちょぼ生えているのではなくて、今ちょうど食べ時ですよという頃合いなのかなって。

天気●美味しそうですよね。パセリが好きなんですよ、僕。残しているのって意外だなって。パセリって美味しいじゃないですか。

祐子●少し深読み過ぎるかもしれないのですが、魔術師のカードが出ているのでちゃんと設備が整っているところで育てている感じがします。例えばペヤングソース焼きそばを食べ終わったあとの容器に土を入れて育てているとかじゃなくて。

天気●あー、話がどこにいくのかと思った。ちゃんとした、ちょっとおしゃれな、ね。

祐子●おしゃれかどうかは分からないのですけど、相応しい道具というんですかね。植木鉢なりに植えられているのかなと思います。ところで、なにか質問とかありますか?

天気●質問って言われても(笑)。

祐子●例えば、このカードの意味ってなに? とかあれば。

天気●二枚目のカードってなんでしたっけ。

祐子●これは「女教皇」というカードです。私もこのカードはいつもどう読もうかなって思うカードなんですけれど。タロットカードの大アルカナは0から始まって22で終わるのですが、人の成長と同じような流れなのですよ。だから0は生まれたばかりの赤ちゃん。次の1はこれから歩き始めますよみたいな感じ。

天気●0から22なの?

祐子●はい。大アルカナは。

天気●あ、これは1と2が出たわけ?

祐子●そうです。

天気●すごい。僕は1から3くらいまでしかないのかと思っていた。あ、じゃあ23枚のうちの1と2が出たんだ。

星一郎●へーー。

祐子●だから成長の段階という感じがします。

うさぎ●ほーーー。

天気●「始まる」という感じですよね。なおかつ、魔術師で準備が整っていると。

うさぎ●良い環境で育っているってことなのかな。

祐子●女教皇は「知識」とか「知性」のカードなので、人間の成長でいうなら言葉を覚えはじめるとかそんなタイミングかなと思います。タロットカードの大アルカナは0の愚者から始まって21の世界でお終いですが、これは、人がこの世に生れ落ちていろいろな経験をしながら成長してゆくという物語になっていて、21まできたらまた0に戻る。これを何回も繰り返します。占いではこのサイクルは螺旋状に繋がっていると考えられているので、同じテーマが巡ってくるけれども、受け取る場所の階層は毎回違うという考え方。小アルカナも「1」から始まって「キング」で終わり。キングまできたらまた1に戻って、それを繰り返します。占いではだいたいこんな考え方をしています。

天気●そう聞くと、寝顔もわりとイノセントなというか。大人にせよ子どもにせよ無邪気な寝顔に見えてきますよね。

祐子●ですね。「汝よ」ってことは「誰か」ですよね。

天気●うん。「あなた」ですよね。ま、実際には文字数をどうするかということがあったんですけどね。「ねむれ巴里」というところから作り始めたから。

祐子●カードから見ると、この寝ている人はまだ若い、若いというか幼い。それは生物的に幼いのか精神的に幼いのかはわからないけれど、いずれにせよまだ幼い感じがします。私はペンタクルのキングはもりもり茂っているパセリのことかなと思って、魔術師と女教皇はねむっている人のことを示しているのかなと思いました。

天気●ねむっている人は始まりだけどパセリは完成しているってこと?

うさぎ●成長のはじまり?

祐子●はい。もしかしたらロマンティック過ぎる解釈かもしれませんが、水がゆきわたってパセリが大きく育ったように、ねむっている人にもこれから大きく成長してほしい。そういう願いみたいなもの。

うさぎ●じゃあ、祝福の感じかな。

祐子●そうです。そうです。

天気●祝福の感じはすごく嬉しい。「汝」に対して安心して眠りなさいという。それは嬉しいですね。

うさぎ●なんかララバイみたいですね。子守唄みたいな。

星一郎●この句は充実している感じがします。準備のカードもあるし。

祐子●ですよね。私もそう思います。

天気●準備から最後まで。

祐子●そういうカードがでています。

うさぎ●なんだろうな、俳句を鑑賞するときにいろいろな鑑賞のやり方があるのだけれども、タロットに頼る、頼ると言うと少し違うけれど、タロットで出たカードを読み取ってみて、一瞬自分を無にしてみる。そうすると思わぬ読みにたどり着くねっていうのもやり方の一つとして面白いかも。

祐子●私もそこがちょっと面白いかなと思っていて。俳句を読んで自分が感じたこととは全然違うカードが出ちゃうことがよくあるんです。でも占いって自分がほしい答えを求めてしまうと占いをする意味があまりない。出たカードはなるべくそのまま読むことがいいというのが私の占いに対する考え方です。タロットカードの意味は象徴なのでいろいろな解釈ができるし、解釈の幅は広いのだけど、ハッピーなカードはハッピーに読むし、厳しいカードは厳しく読む。そうしないとあまり当たらない気がします。まぁ、俳句を占って当たるってどういうこと? というのはありますが……。

天気●無理に引き寄せたりはしないってことですね。

祐子●そうじゃないと占う意味がないなって、私はそう考えています。

天気●僕がひとつ思ったのはね、言葉はまだ鳴ってなくて、器、器というか楽器みたいな感じに存在していて、カードを並べることによって、そこから初めて音が出て鳴り響くみたいなね。読者の中でね。とくに俳句なんかそうだと思うのだけど、文字が書かれていて意味はわかる、だけど言葉はまだ鳴っていないということがある。でも、鳴り尽くしている句っていうのは言い過ぎていると言われたりすることがあるじゃないですか。

祐子●鳴り尽くしているというのはどういうことですか?

天気●そこでもう言い尽くされている。

祐子●多くの人に鑑賞し尽くされているということですか?

うさぎ●その俳句自体が自己完結している。

天気●そう、書き尽くされているというかね。

祐子●説明が多い句ということですか?

天気●説明というか明瞭。

うさぎ●余韻、というか余白がないということかな。

天気●句会などで、ここまで俳句で言ってしまうことが良いかどうかという意見がでることがあって、鳴り尽くしている句はあまり良い句とはされないことが多いのだけど、分かりやすい句でもまだもっと鳴りそうな句というのがあって、そういう句は人に印象を残しますよね。

祐子●なるほど。

天気●いや、わかんないですけど。ふふふふふ。

祐子●ふふふふ。

天気●例えば虚子の分かりやすい句にしても全部すごく明瞭で十人いれば十人に同じことが伝わるけれど、まだ鳴り切っていないというようなことがあるのかな、とか。どうなんですかね。

祐子●こういうことやるのは今回が初めてなので。

天気●はじめてなの? え、どういうこと、どういうこと。でも俳句は占っているんでしょ?

祐子●俳句は占っていましたけれど、今まではひっそりと自分一人で占っていました。

天気●あー、セッションが初めて。

祐子●はい。

天気●そう、でもそれはいいかも。聞き手がいるっていうのが。

祐子●ずっと一人で占っていたんですけど、セッションでやってみたいなって思い始めて。それで、今回お願いしました。

天気●それ、意味があるかも。

祐子●え?! 意味がありますか?

天気●だって、一人の読みよりも聞いている人、タロットの岸田さんの説明を聞いている人があるというのはすごく意味があると思う。

祐子●よかった。

天気●ここに集まった三人もみんな違うことを思うだろうし。

うさぎ●うん。

祐子●やっぱり、いろいろな方に来ていただいて良かった。なんとなく二人っきりでやるより他に人がいてくれた方がいいかなとは思っていたんですけど。

天気●それはいいと思う。作者と岸田さんだけだと作者はどうしても自解になるから言いにくいところあるしね。でもこの句は引用元を言いたくなるようなところがあるから、言っちゃうけどね。

祐子●解説?

天気●解説というか、ここはこういう風に仕掛けたんですよって。この句は仕掛けの多い句だからね。

祐子●「ねむれ巴里」のところですよね。

天気●「ねむれ巴里」から作り始めて、「ねむれ」で切りたかった。そうするならどうしたらいいかってなって、上にも文字をつけて、巴里ではないものを探したら巴芹ぐらいしかなかった。それで巴芹となった。

祐子●あ、だとしたら、カードに照らし合わせると二枚目の大アルカナと三枚目の小アルカナの間が「切れ」だということになりませんか。ちょっと無理矢理かな。

天気●おー。

うさぎ●へー。

星一郎●確かに。

祐子●一枚目と二枚目は「1」と「2」で続きの番号できているし、そもそもこの二枚は大アルカナなので、小アルカナとは分類が違うし。大アルカナと小アルカナの間に切れが入っているのかも。大アルカナの方は小アルカナより大きな時間軸なのかもしれない。

天気●大アルカナの二枚を一組で考えるというのは面白いかもね。この句は意味的には「汝よねむれ」で切れて「巴芹に」と続くわけだけど、作り方の仕掛けとしては『ねむれ巴里』があるから「ねむれ巴芹に」までが一つというね。「水のゆきわたる」は後で意味が通じるように付けたぐらいのあれだからね。そういう意味でも外観上の切れと作る時の手順の切れが違うという句だよね。

祐子●今回、初めて俳句の「切れ」をタロットカードが示すのを見ました。

一同●あははははははは

祐子●天気さんの話を聞きながらカードを見ていたら、カードでこんなふうに「切れ」が現れるのかって思いました。こういうことを見つけると占いって当たるなって思っちゃう。当たるっていうか、まぁ、妄想なんですけど。

うさぎ●なんか納得するというか、合点しちゃうというか?

祐子●はい。占いのこういうところが楽しいです。

うさぎ●これ、大アルカナの1と2で始まって、小アルカナではキングが出て、キングが「終わり」っていうのがちょっと面白いなと思って。

祐子●そうですね。大アルカナの方は「汝よねむれ」と言われている方の人生というか、長い時間というようなことを表している気がします。大アルカナは人の人生を表していると私は思っていて、小アルカナはもうすこし具体的なことというのかな、身近なところを細かく見てゆくというカードなので、そこにも「切れ」がある。

うさぎ●うんうん。

祐子●「水がゆきわたる」というのは具体的な感じがします。「汝よねむれ」も具体的なことだとは思いますがイメージ的なところもあるので、「水がゆきわたる」は具体的なことを示す小アルカナっぽさがあるなと思いました。ちょっと無理矢理な解釈かなぁ。

天気●まぁ、「汝よねむれ」はムードだものね。

祐子●ムードがありますよね。あと、一晩だけではなくて、そこから繋がってゆく時間、来年も再来年も十年後もずっとという長い時間を感じました。「汝よ」と言われている人の人生はこれから始まるんだよというのが二枚の大アルカナで示されているのかなって。えへへ。

うさぎ●なるほど、面白いね。

祐子●もちろん、この解釈が正解ですというようなことでは全然ないです。

星一郎●なんか、新しい読み方みたいな感じですね。

祐子●ね。「ね」って言っちゃった。


さて、次は、細村星一郎さんの句です。「放蕩」10句から、次の句です

放蕩のわたしに水の汽車が来る  細村星一郎

出たカードは、次の3枚。

1枚目「ワンドの2」・2枚目「カップのペイジ」・3枚目「ソードのナイト」


うさぎ●あら、みんなかっこいい猫たち!

天気●小アルカナだけが出たということ?

祐子●はい。今回は全部小アルカナです。

うさぎ●ローマ数字じゃなくてアラビア数字のカードもあるんだね。

祐子●えっと、二枚目と三枚目のカードは小アルカナの中でもコートカードとか人物カードと呼ばれていて、ペイジは小姓のことです。ペイジの他はナイト、クイーン、キング。小アルカナは1から10までの番号のカードと四種類のコートカードからできています。ワンドの管轄は情熱とか勢いとか。カップは気持ち、情緒、感情。ソードは知性や決断です。今回、私が最初に思ったのは、水という文字がある俳句にカップのカードが出てきたってところですね。

一同●ほーーー。

祐子●カップは水を表しますし、カップのペイジに描かれている絵を詳しくみると、背景に海もあります。まずそこがこの俳句にある「水」とリンクしているなって思いました。あと、ワンドの2ですがこのカードはちょっと立ち止まる感じがあるんですよね。かなりざっくり言ってしまうと、タロットカードの数字は奇数が動く、偶数は止まるとして考えることが多いです。ナイトは騎士で、肉体的に一番充実している時期の男性が描かれているカードなので壮年期の人、活動的というイメージです。カードを見て「放蕩のわたしに」というところに少し立ち止まった印象があるように感じました。ワンドの2はちょっと迷っているというカードなので、「放蕩しているわたし」は小さな迷いを持っている人なのかなと思いました。

うさぎ●ほーー。

祐子●水は占いでは気持ちや情緒を表します。ペイジは少年でまだ成熟していない。だから気持ちのコントロールが危ういとかそんな感じがあるんじゃないかなって。私がそう思ったってだけですけど。言い換えれば、無垢とか純粋な人とも言えるので、出てきたカードから考えると「放蕩のわたし」は若い人なのかなって思います。作中主体が誰なのかはわかりませんが、作者を知っていることもあって若い人なのかなって。でも、それを抜きにしてもわりと若い人なんじゃないかな。十代か二十代の前半くらいまでの感じ。「水の汽車」というのがどういう汽車なのかがよくわからないのだけど……。

天気●ちょっといいね、「水の汽車」って。いいよね。

祐子●カードから考えると、気持ちや感情のイメージとしての汽車なのかなっていう気がします。水の上を走ってくる汽車とかいうのではなくて。

天気●機関車って水を積んでいるからね。

祐子●えっ、そうなんですか。

うさぎ●機関車って石炭を燃やすのではないの?

天気●石炭を燃やした熱で水を沸騰させて、水蒸気の力で走る。水のタンクを積んでる。「水の汽車」という言葉には、機能的なこととイメージ的なことの両方があるね。

祐子●ソードは考えとか知性を管轄するので、考えながら放蕩しているという感じもあります。

うさぎ●この句自体が知的な作りっていうのがあると思うので、そうなるとソードはこの句自体を表しているのかなって。ちょっと思ったり。

天気●あとちょっと嫌味っぽくなっちゃうけど、「放蕩」っていう言葉は放蕩をしたことがない人が使いたがる気がするよね。

星一郎●へへへへへ。

うさぎ●あははは。なるほど。

天気●本当に放蕩をした人がつくる句ではないようなね。

うさぎ●「放蕩」というと「とうじん」っていうかね。

祐子●「とうじん」って?

うさぎ●放蕩の蕩に尽すで「蕩尽」。使い尽すとか溢れるとか、そこも水っぽいイメージがあるのかなあ。

祐子●出てきたカードは少し矛盾があって。ワンドの2は立ち止まるとか一旦考えるという意味なのだけど、ソードのナイトは動いているカードなのですよね。

うさぎ●矛盾を孕んでいるんだ。

祐子●矛盾というか、反対の要素のカードが出ています。うーん、例えば気持ちは止まっているのだけれど体は動いているとか読めばいいのかな?

天気●ワンドの2のカードで「放蕩のわたし」が立ち止まっているとするなら、対応していますよ。

うさぎ●「汽車が来る」のだもの。

祐子●あーーーーっ、汽車!!! かっ!!

天気●うん。「汽車が来る」ってね。

星一郎●この句の後半は動きがある。

天気●この句は「来る」がいいよね。「行く」じゃなくてね。

祐子●あと、汽車って、まぁゆっくり走る場合もあるかもしれませんが、基本的にはスピードがあるものなのでそこにもナイトの感じがあります。

天気●あのね、馬上と汽車は視線の高さがと同じなの。

祐子●ええっ!

天気●昔はある程度身分のが上の人だけが体験できた視線の高さを一般大衆が経験できる、汽車にはそういう意味があるんだよね。馬にのってその視点から景色を見ることができる人っていうのは、位が上の人じゃないですか。一般大衆ではないよね。汽車っていうのは大衆が上流階級の視点を体験できるという捉え方。そういう捉え方をしたら面白いよね。

うさぎ●ほーーーーう。

祐子●だから馬に乗っているんだ!

星一郎●馬も象徴的な感じですね。

天気●馬と汽車はすごく対応する。

祐子●やっぱりこのソードのナイトは汽車を表してるのかもしれないですね。

天気●視線の高さという意味で汽車と馬はイコール。

祐子●汽車にそんな意味があるなんて全然知らなかった。

天気●そこは僕の解釈ではなくて、むかし記号論とかの本で読んだ。発明や新しい事物というものはいろいろなものを大衆化するじゃないですか、塔や気球は神の視座の大衆化だし。

うさぎ●「水の汽車」というのはソードのナイトに対応しているのね。

天気●すごく合ってる。

祐子●ばっちり出ましたね。なんか嬉しい。

うさぎ●「放蕩」というのも情熱がないとできないしね。

天気●あはははは。逆のような気もするな。放蕩息子に情熱があるとは思えない。
裏腹もあるかもしれないけどね。

祐子●ワンドは冒険でもいいかなと思います。ワンドって、わりと能動的なんですよね。

天気●「ワンド」ってどういう意味なの?

祐子●棒。

天気●棒? あっ、杖か。

うさぎ●魔術師の杖というか?

天気●魔術師とは限らないんじゃないの。

祐子●うん、魔術師は関係ないです。

うさぎ●あ、そっか。魔術師はさっきの句に出てきたんでしたっけね。

祐子●星占いでワンドに対応しているのは火のエレメンツです。火の管轄は情熱とか冒険とか、あと戦いとか。なんていうのかな、ガツガツしてる感じです。

うさぎ●ガツガツしている、まさしく放蕩。

祐子●放蕩ってガツガツしているのかなぁ。

うさぎ●ガツガツだよー。

天気●放蕩のイメージがすごくまちまちだ。人によって全然違う。

うさぎ●放蕩、放蕩、放蕩息子。

天気●放蕩って女性に使う?

うさぎ●放蕩娘とは言わないね。

祐子●そういえば言わないですね。

天気●放蕩は女性性と結びつかないね。

祐子●放蕩ってもともとはどんな意味ですか?

天気●放蕩息子を一番わかりやすく言えば、親のお金を遊びで使い果たしちゃう。

うさぎ●身上潰しちゃうとかね。

祐子●そっかー、でも情熱がこの句にどう繋がるのかがよくわからないなぁ。

星一郎●真ん中のカードのカップのペイジにある「精神的な幼さ」っていうのは「放蕩」に少し関係ありませんか。そして情熱にも関係していて、どっちにもかかっている。

天気●あと、カップのペイジは「わたし」という一人称にもかかってくるよね。自意識っていうかね。だからすごく対応している。

祐子●ペイジには幼いというイメージの他にフレッシュとか無垢、純粋というようなイメージもあります。

天気●そういうイメージに「わたし」という一人称が結びつくよね。

祐子●ぴったりですね。

天気●あとは「放蕩」と「棒」か。

星一郎●なんか、おもしろいですね。

天気●うーーーん。でも、放蕩と棒ってイメージ的に結びつかないわけじゃないよ。

祐子●結びつきますか?

天気●うん、僕は結びつく。ところで、「棒」ってなんなんだろうね。

祐子●棒は、真っ直ぐで投げればぴゅーっと行くというイメージがあるので「勢い」とか「パッション」と解釈しています。

天気●このカードの人は何のために棒を持っているの?

祐子●何のために棒をもっているか。うーーーん、それは考えたことがなかった。

天気●なぜ持っているかは関係なくてただ棒のカードということなんだ。

祐子●そう思ってました。小アルカナは棒とカップとペンタクルとソードという四つのものからできているっていう以外に考えたことなかった。

天気●棒はなんのエレメンツなんだっけ?

祐子●棒は火のエレメンツです。

天気●あ、なるほどねー。

祐子●世界はこの四つのエレメンツからできているってことになっています。

天気●じゃあ、「放蕩」「蕩尽」に結びつくじゃないですか。「蕩尽」の一つの方法って火にくべるんですよ。

祐子●え? なになになに?

天気●「ポトラッチ」ってありますよね。

うさぎ●あっ。

祐子●ポトラッチってなに?

うさぎ●贈り物し合うことよ。二つの部族がお互いに競い合って贈り物をし合うの。

天気●贈り物もあるんだけど、火に放り込んじゃうんですよ。どちらがより大切なものを火に放り込めるかで勝負が決まるの。

祐子●自分の一番大切なものを燃やせることが強いっていうことですか? それが放蕩?

天気●それが蕩尽。マルセル・モースの贈与論とかの世界ですね。

祐子●へーっ。

天気●だから、気持ち悪いくらいに関連付けはできた。

うさぎ●ふふふ、天気さんもタロットにはまるかも。

天気●ふふふ、はまらないけど。タロットで俳句を占う時は知識のジャンルが違う人に来てもらうのがいいかも。僕は社会科学系、うさぎさんは外国語系。

うさぎ●外国語に詳しくないよぉ。

天気●ああ、すっきりした。放蕩と火はリンクしている。

うさぎ●そして、火と水っていうのがまた対照的よね。

天気●そうだよね。「水の汽車」が来るってね。

祐子●あと、ペンタクルが出ていないというのがひとつの鍵かなって気がします。この句って実のあることが何もない感じなんですよ。ちょっと言い方がよくないですが。

星一郎●いや、わかりますよ。イメージの世界というか。

祐子●「物が出来上がりました」とかそういうことがなにもなくて。ペンタクルは現実的成果のカードなので、出なかったということがこの句にあってる気がします。

うさぎ●ちゃんと反映されてるね。

祐子●あ、あの、成果がないというのは悪い意味で使ったわけではなくて、イメージっていうのもネガティブな意味ではないです。

星一郎●あ、はいはい。実態としては詠んでいないという。

祐子●えっと、俳句をどういう風に作っているかということではなくて。汽車は来るけどその後どうなるのかは何も言われていないっていうか。「来た汽車は西国分寺まで行きます」みたいなことが何もわからないという意味で、この句の中には現実的な成果といえるようなものがないなって。だけど、気持ちや知性、情熱みたいなものはギュッって詰まっていて、そこが面白いです。ペンタクルは出てこないんだねぇって。

天気●余談の冗談だけど、消しに来たんじゃないの。水で。

星一郎●火を?

うさぎ●そんな感じもちょっとあるよね。水の汽車が来るってね。

天気●タロットと俳句がクロスしている。

祐子●三枚目のカードから見ていくと汽車は右側からやって来る感じがありますね。

うさぎ●そうね。絵柄的にも左側に向かって進んでいる感じがあるね。

星一郎●馬が左側を向いてますもんね。

うさぎ●他のカードの人もみんな左側を向いているよ。

天気●カードの並びや絵柄の右左は偶然だけど偶然を楽しむ遊びなんだよね。解釈もね。

祐子●そうです、そうです。偶然を楽しみます。

うさぎ●おもしろいね。

祐子●あと、タロット占いはカードの持つ意味も大切ですけど、どんなものが描かれているのか絵をよく見るということも大切と言われています。どっちを向いているのかとか、背景に何があるのかとか。

天気●カードの色が赤と青。火と水だよね。

祐子●わ、わ、わ、ほんとだ。ワンドの2が赤い服でカップのペイジは青い服。「気持ち」という点では、私はこの句に暗さや不安はほとんど感じないのだけど、句全体としては少しざわざわした印象を持ったんです。暗さや不安が控えめなのはペイジの背景にいるイルカが可愛いからかなって思ったりして。でも、海は波が立っていてそこには少しざわざわの感じがあるし、ナイトの背景の雲が紫色なのもちょっとざわざわした感じがする気がします。

うさぎ●これはなに? ワンドの2の床にある染みみたいなもの。

祐子●えー、なんだろ? 影?

うさぎ●水の染みみたいにも見えるね。

天気●それ、おもしろいね。思わせぶりなこといっぱいでてくるね。

星一郎●赤と青を混ぜたら紫。

うさぎ●そうだーーーー。

星一郎●絵具だったらそうなりますよね。

祐子●紫って水の色っぽい感じがしますね。あ、汽車と黒い馬も。

うさぎ●そうだよね。

祐子●汽車は黒い気がしますね。電車ではなくて汽車ってところが。

うさぎ●汽車っぽい。黒い、黒い。

祐子●やっぱり占いって当たるね。

一同●あははははは。

天気●解釈とかもセッションでするのがいいみたいだね。

うさぎ●ね、みんなで考えて。

祐子●ねー、おもしろい。ありがとうございます。

星一郎●いや、なんかおもしろかったです。あと、占いっていうか、別に狙ったわけじゃないんですけど、なんか今日占った句は形が似ていますね。

天気●水が多かったね。

星一郎●「に水の」が二句に共通。

うさぎ●ほんとうだ!

天気●「眠れ」と「放蕩の」というのは観念の捉え方ってところが似ているし。

祐子●どっちの句もふわってしてますよね。



〔後記:西原天気〕

俳句には偶然の要素が少なくない。語を選び、並べているうち、思いもよらなかったかたちになることもあって、自分の操作の外側から何かが訪れて、一句をもたらした格好です。

偶然は、〈読み〉にもあっていいのではないか、と、うすうす思っています。読解というとおおかたがコントロールされた状態にも見えますが、思わぬ方向から〈読み筋〉が到来することもあるのではないか。

今回、3枚のタロットカードが、私たちの〈読み〉とは別の場所から、新たな〈読み筋〉をもたらしてくれたのかどうか。判断は読者諸氏に委ねますが、参加者の一人として、《タロット占い×俳句》のセッションをじゅうぶんに愉しみました。




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