【週俳・1月2月の俳句を読む】
挿話
堀下翔
静けさに挿話集まる室の花 花尻万博
挿話。なんと胸の躍る言葉であろうか。ある物語に差し込まれる、本筋を離れたエピソード。物語はつくりものであり、多くの場合、秩序だった一本の糸をどこかに通すことができる。一方、そこへ加わる「挿話」は、因果関係がどこにもない。だから「挿話」の積み重ねられた物語は、出来事どうしの孤立した現実世界の無慈悲さを少しだけ取り込むことに成功しているし、逆に言ってしまえば、この現実の世界は、数限りない挿話の総体ではないか、という気もするのだ。静かな部屋の中に挿話が集まるという掲句。紡がれるのが単なる物語ではなく挿話であるということ、またそれらが自然と「集まる」ものである、ということには、世界を語ることのそういった尊さがあるように思われる。
結昆布結び目の暗きをつまむ 小野あらた
小野あらたは、たとえばこの句を、どれほど考えて書いたのだったか。結昆布をつまむ、ということを書くときに、まず、その結び目が暗い、ということも書く。あるものの一部がどのようであるという書き方は彼の好むところである。結昆布に関して、その結び目を書こうとすること。その結び目に関して、色を書こうとすること。その色が暗いと書こうとすること。結び目が暗い、という描写はすでにこのような選択の末になされている。ここにはたとえば「黒き」ではなく「暗き」と書くことで象徴性が思われるだろう、といった作家としての芸もある。結昆布と上五で示したあと、中七でふたたび「結び目」という自明の言葉を書く念の入りようもそういったもののうちである。こうした選択と配慮を思うとき、しばしば小野あらたが「トリビアル」の語をして形容せしめられている事態に、筆者は納得するのである。
第405号
■小野あらた 喰積 10句 ≫読む
第406号
■花尻万博 南紀 17句 ≫読む
第409号
■なかはられいこ テーマなんてない 10句 ≫読む
■兵頭全郎 ロゴマーク 10句 ≫読む
■赤野四羽 螺子と少年 10句 ≫読む
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