【週俳6月の俳句を読む】
遠くから見えるもの
茅根知子
麦秋や病院よりも白き墓 利普苑るな
菩提寺の隣に大きな病院がある。墓参りのたびに、いつも眺めていた。きっと病院からも墓地が見えるはずだ。こういう状態を人は「よりによって」とか「縁起でもない」と言い、「何だかなぁ」という気持ちになる。けれど、本当の生死の境に立ったら、縁起のことなんて頭をかすめもしない。掲句を読んで、そんなことを思い出した。病院と墓、生と死、離れているようですぐ隣にある。何だかなぁだけど、〈麦秋〉に救われる。
箱庭の作者が映り込む水面 福田若之
小学校の理科の授業で〈箱庭〉があった。もともと理科は好きな科目だったが、殊に箱庭は大好きだった。山を作り、湖を作ってアルミ箔の舟を浮かべた。朝、学校に行くと真っ先に様子を確かめるのだが、舟は必ず沈んでいた。10歳に満たない子どもには何故舟が沈んでしまうのかが分からず、誰かの意地悪だと拗ね、舟を浮かべ直してはまた沈みという毎日を繰り返していた。あの時、水面には悔しくて半泣きの子どもの顔が映っていたのだろう。掲句を読むと、記憶だったものが見えてくる。箱庭に、小さな箱庭と朽ちた子どもが置いてある。
第424号 2015年6月7日
■利普苑るな 末 期 10句 ≫読む
第426号2015年6月21日
■喪字男 秘密兵器 10句 ≫読む
第427号 2015年6月28日
■福田若之 何か書かれて 15句 ≫読む
2015-07-12
【週俳6月の俳句を読む】遠くから見えるもの 茅根知子
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