【八田木枯の一句】
情なくてうごきづくめの水の月
太田うさぎ
第5句集『夜さり』(2004年)より。
情なくてうごきづくめの水の月 八田木枯
どんなに静まり返っているようでも水面はかすかに揺蕩っている。手の届かない彼方ではなくすぐそこの水に映っているのに、月は空にあるそのままの姿をしばしも留めてくれない。ゆらゆらゆらゆら、ゆらゆらし通し。お月様のいじわる。
水面に映る月の俳句はこれまでもたくさん詠まれてきただろう。揺らぐ月影は俳句作者の作句魂をそそるに違いない。そのときにさて、どのような角度から切り込むか。そこに作者各々の持ち味が出るわけだ。
で、「情なくて」。
“なさけなくて”ではなく、”つれなくて”、です、念のため。
「あら、つれないのね」なんてこの頃は余り耳にしなくなったような。薄情を責めながらどこか媚を含んでいる。昨今で言えば「ツンデレ」の「ツン」に相当するのだろうけれど、比べると断然大人度の高い言葉だ。変幻自在に輪郭を変え続ける水上の月を軽くからかうような口ぶりは端唄小唄の持つ婀娜っぽさに通じそうだ。洒脱を愛した木枯さんの姿が浮かんでくる。
いつになく雨がちの九月。月を仰ぎながら帰る晩が幾度あっただろう。せめて俳句でお月見というのも悪くないかもしれない。
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