竹岡一郎
進(スス)メ非時(トキジク)悲(ヒ)ノ霊(タマ)ダ
前篇:舌もてどくどくする水平線を幾度なぞつてもふやけず諦めず舌が鳥になるまでパアマネントは褒めませう
禁野の鹿夜ごとの月に舌挿し入れ
うするるか木犀の香と産土と
敬老の日は馬券散りたそがるる
善人が黙(もだ)えらぶ世の鵙日和
千代ちやんの舌吸ふ秋の蛸断片
魚たちの合金の鰭むしる長夜
麻薬のやうな霧湧く広場だが爆破
満月が毀(こぼ)れてはデモ隊となる
議事堂裏に潜む僕だけに鰯雲
ふるさとを捲(めく)つてあたし鯖雲出す
つゆくさの青へ沁みゆく懺悔かな
蛇穴に入るまへ羽と四肢が降る
「要らん子」と競技場が僕吐く秋
けふ牡鹿かの巫を突きに突く
砲兵工廠勢(きほ)ふ舌より紅葉(もみ)づらん
菜種蒔く重火器さわぐ道の左右(さう)
寺焼いて放つ椋鳥みるまに増え
末枯や喘ぐ拍子に舌失くす
議事堂無月見渡す限り髑髏馬
つひに身にしむ獣の数字せめて素数を
豺に暗愚の首を祭らせん
火炎放射器では消せぬ虫時雨
広場の長き傷口覗けば銀河
俺とならび飛ぶ雁すでに唖なるが
紅葉且つ散る鉄路にも貼りつく遺書
野菊よ何処へ特攻すれば咲(わら)つてくれた
明治節血文字黒ずむ直訴状
鹿よりも瘦せ爛爛と法学者
わが舌は長夜の獄を舐め熔かす
瞋り光り巨塔へなだれ込む鹿たち
2015-11-08
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