【句集を読む】
捨てられる直前の記憶
杉山久子句集『泉』の一句
西原天気
捨てられしバナナの皮と本の帯 杉山久子
バナナの皮は捨てられる。本の帯も、人によるが、捨てる人もいる。どちらも捨てるもの、という仕組みだけで成立する句もあるが、この句はそうではなくて、場面がしっかりと見えてくる。これは読者にうれしい。
本の帯を捨てる人は、きっと読書家ではあっても蒐集家ではない。「読むこと」を実質的に楽しむ人です。本を丁重にあつかうことはしませんが、読み慣れてはいます。
だから、読みながらバナナをほおばるなんてことも(つまり、左手だけで本を支えて、右手にバナナ)、自然な所作でやりとげる。段落ひとつを読んでは、ぱくりとバナナを口へ。
いや、バナナの皮はすでに捨てられているのだから、食べている最中ではないだろう、って? もちろんそうなのですが、捨て置かれたものは、すべて、少し遡った過去の影をともなっているのですから、それほど無理筋の連想ではないでしょう。
それに、本を読む人の姿を思い浮かべるほうが、句が、ぐんと楽しくなります。
2015-12-20
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