第454号
2016年1月3日
●特集 2016「週俳」新年詠
1月1日
ロードムービー始まる鷹の目玉より 今井 聖
数の子の無くなりし皿汁残る 島田牙城
ばついちの門をくぐって初景色 紀本直美
鍋光る福島第一原子力発電所事故以降 曾根 毅
山神の削り花とは女陰の毛 谷口智行
元日の愚かに過ぎぬ茜雲 岸本尚毅
足音に猫目を覚ます飾り海老 後閑達雄
賀状書くiichikoフラスコボトルかな 瀬戸正洋
元朝やきのふとちがふけふのふふ 矢作十志夫
おおとりやうみやまに身をよこたえて 宇井十間
寿老人の頭を帆柱や宝船 清水良郎
新聞を隈なく読めりお元日 熊谷 尚
目のレンズの曇り拭はむ初明り 大島雄作
初刷や兜太の笑みの「朝日賞」 髙橋透水
にきび食ふこそこそも好き歌留多せむ(←)薮内小鈴
お賽銭一家にまっさらな五線紙 宮崎斗士
藪入や件に腕ひしぎ十字 赤野四羽
初日の出ドミノ倒しのきらきらす 中原和矢
亡き馬と夜ごと語りて春永し 森脇由美子
二日酔ひ自分捨つれば年明くる 富田踏修
響き合ふ港の汽笛去年今年 淡海うたひ
元日の太陽沈むアスフアルト 矢口 晃
戦争せぬための戦争冬すみれ 鳴戸奈菜
もっと光を元旦の窓開け放つ 畠 働猫
初詣畦のみどりのうるみをり 山口昭男
餅花や昭和のカフェに葡萄の扉(ひ) 松平青萄
去年今年鯨尺もて背ナを掻き 上野一孝
大なり小なり我らに未来あり淑気 池田澄子
一刀で首刎ねられて初寝覚 滝川直広
みんなさみしい明けましておめでたう 宮本佳世乃
ゆるゆると初夢をでて夢に入る 月野ぽぽな
恐る恐る伊勢海老掴むめでたさよ 広渡敬雄
フェノロサとながめてゐたり初日の出 山田露結
かはらぬといふ去年今年この平和 藤田翔青
鷺白く鴉の黒くお元日 岩淵喜代子
そのちょろぎ生きていてまだ動くから 石原ユキオ
太初には大陸ひとつ初御空 仲 寒蟬
惑星に象が一頭お元日 小川楓子
淑気かなのぞみまっすぐ太陽へ わたなべじゅんこ
買初の書店古書店又書店 杉田菜穂
海黯くなみおと昏く去年今年 しなだしん
喜びの米といふありこぼしけり 山西雅子
姿見に反射してをる初明り 杉原祐之
正面に城見えてをり初句会 涼野海音
よく育つ猿の腰掛去年今年 常盤 優
初がらす双子同時に振りかへる 柏柳明子
元日の一日聖歌の途切れざる 橋本 直
買初めのペットボトルのペコと鳴る 村嶋正浩
初富士に死化粧する巨きな手 堀田季何
去年今年クロノスがスクロールする 鈴木茂雄
元日の日の出を猿も見て御座る 徳田ひろ子
梅椿左右に従へ初日まつ ハードエッジ
裸木となれり拳を溜めるため 玉田憲子
木呪ひ終へて仏身浮かぶ空 中村 遥
霜解けの暗峠ひとは肉 牟礼 鯨
年明けのまだ明けぬ道月明かり 後東 靜
初詣後千年の迷ひ道 竹内宗一郎
姫始め一花奈二美羽三菜美子 ゆなな子
もっと光を元旦の窓開け放つ 畠 働猫
初明り赤子のデコに御目出度う 富永顕二
待つほどに処処のきらめく初日哉 櫛木千尋
去年今年何ぞと猫は問はねども 照屋眞理子
伊勢海老のあかあか父と正対す 齋藤朝比古
初みくじ甘酒置いて引きにけり 鈴木不意
黒猫も悪事を休むお正月 青島玄武
咆哮す毘沙門天の合図かな けんいちろー
弾初を幼き日より弾きし曲 トオイダイスケ
読初は手の記憶あるページより 鈴木牛後
生誕の海から遠き恵方かな 灌木
危惧された牡蠣はゆっくり夢精する 月波与生
初凪や信なきわれに天主堂 三宅勇介
髪型を父に近づけ初写真 三島ちとせ
子の描く月面都市や年賀状 鈴木桃子
お雑煮へ二滴三滴の眼薬 北大路京介
初日さす関東平野いきいきと 茅根知子
行先はこれから決める福寿草 小林かんな
1月2日
絵双六たたまれ山河残りけり 川越歌澄
あけましておめでたういふたび歯石 中山奈々
頭かきつつ申年の礼者来る 篠崎央子
片方の目より覚めたる二日かな 五島高資
夢の世やむすめふさほせ取り損ね 小林苑を
御降や四十八歳と並び 岡村知昭
棒の影棒にもならず去年今年 嵯峨根鈴子
四日には着くかと思ふ年賀状 西村麒麟
正直に信号を待つお元日 河野けいこ
点描の寿ぐ明けや福寿草 琳譜
浚渫船雪のプラットホームまで 斎藤悦子
揺れやみて夕買初のインク壺 赤羽根めぐみ
石ノ床木ノ床畳ノ床正月 佐藤のど
見飽きたる指の長さよ初寝覚 糸屋和恵
「お正月ですから」とばかり言うてをり 松尾清隆
読初のベンチ買初待ちゐたる 黒岩徳将
幸せになる覚悟あり大旦 山本たくや
万両のこんもりとしてお正月 四ッ谷龍
獣めく初日人類立ち上がる 小久保佳世子
黒糖を舐めて眠つて年明くる 倉田有希
来た来たと囃され初日出でにけり 南十二国
をさな子のしと浴びにけりお元日 押野 裕
猿まはし終へてぱちんと腕時計 西山ゆりこ
元日の酸素の味の美味しかな 鷲巣正徳
賀状来る地に樹に草に水流れ 松野苑子
少年の揚がらぬ凧の揚がりたる 吉川わる
鳥居越し二日の海を眺めけり 松本てふこ
宿題をロボットにさせ寝正月 渕上信子
初空に鴨くちばしを上げにけり 対中いずみ
澄み渡るこころ初空富士の山 中嶋浩智
大服やうつらうつらと鏡の中 大塚 凱
初春をほほけしひとに告ぐるかな 中川東子
一病を負ふまなざしに年の酒 下坂速穂
会へばまづ手を振り合つて御慶かな 依光正樹
元気でもさうでなくてもお元日 依光陽子
初刷のマチスの鼻の童かな 佐藤明彦
夫うつくし雪を一粒ずつ食うぶ 佐々木貴子
空に散り初鴉とは遠きもの 生駒大祐
軒下に積みて瓦や初明り 林 雅樹
何の芽か早や元日の土を割る 村上鞆彦
めりめりと空のめくれてくる飾 鴇田智哉
太陽が妙にギラギラ御元日 北川美美
年男飲んで笑つて泣いてゐる 関根かな
誰にでも引ける大吉初詣 北大路翼
父母猿似われ猿顔や年迎ふ 小澤 實
初風やこの川はすぐ海のもの 今泉礼奈
冥冥の命命鳥の初日影 九堂夜想
細胞の核揺るるまで除夜の鐘 藤井南帆
雨粒に芽のふくらめる今朝の春 大西 朋
初夢のどこにも夫あらはれず 江渡華子
水落ちて石の褶曲去年今年 田中亜美
福笑ひ飽かずに笑ふ子を囃し 本多 燐
抽斗に違ふ初日を入れてもよいか 渡戸 舫
去年今年君は普通に良い名前 外山一機
ふくらみし小鼻をつまむ初鏡 清水右子
去年今年煙を残し消ゆるもの 津久井健之
鏡餅割れねつとりと舌がある 兼城 雄
あかるい頓馬のふかい慶び飾海老 田島健一
その道の魚の匂ひの三ケ日 田中惣一郎
ラグビーの胸ラグビーの腿の下 阪西敦子
書初展のだんだんキラキラネーム展 関根誠子
門松に手足生やして歩かせて 久留島元
死にかけたくせに還暦初日の出 小池康生
はつはるやマーマレードの黄金色 金子 敦
プリンセスの名を持つ子猿お正月 三浦 郁
ソファ凹部戻るに音や去年今年 村越 敦
よく晴れて中洲に雉がいて二日 小林鮎美
正月の炬燵の上の遊びかな 遠藤千鶴羽
初春の地球や茶トラ猫渡る 篠塚雅世
民手づから平和葬る年の明く 関 悦史
マウンドの高みに立てて注連飾 小川春休
元日や知育玩具の黄が滑る 佐藤文香
みどり児の名の年酒を酌めるかな 前北かおる
餅抜きの雑煮に浮かぶ毬麩かな 猫髭
海光に消ゆるふるさと薺粥 津川絵理子
汚し汚し石で打つ布年迎ふ 藤 幹子
流木に海の匂へる初日かな 宇志やまと
食積や駅伝テレビついたまま 本井 英
初泳ぎ猫の重さを振り切つて 菊田一平
引く波に耳をすまして喪正月 満田春日
福沸厨の音もかむさびて 岩上明美
魚ん棚に魚のかがやく淑気かな 森賀まり
初鴉波打際を眩しがる 高勢祥子
大旦卒寿は太き糞(もの)まりぬ 飯田冬眞
年玉の袋に描くR2-D2 岡野泰輔
アトリエの天窓に星淑気満つ 大井さち子
新暦一枚物やドアに貼る 沼田美山
破魔矢かつぎて空広きところまで 塩見明子
初日さっと白湯マグカップにどっと 金原まさ子
元旦の麻雀卓にアポロチョコ 藤田 俊
幼子の見つけたる星お元日 千葉皓史
叫ぶでも逃げるでもなくかまくらに 小津夜景
はつはるの母をまるごと泡立てる 藤本る衣
唇を消し言葉がこもる福笑い 野口 裕
衣擦れに顧みすれば福寿草 加藤御影
お屠蘇こぼされて鰤の赤い 馬場古戸暢
古着屋のスカートのなか淑気立つ 上野葉月
肛門も開いてしまい去年今年 芳野ヒロユキ
バターナイフきらり元日遠くなる 森山いほこ
淑気かな類神猿の群にゐて 石原 明
初夢の後ろで待っている兵士 内藤独楽
スヌーズを片手に止めて二度寝が良い 佐藤未都
三日はや日本鳥類大図鑑 今野浮儚
門松の間に座るブルドッグ 岡田由季
門松の番人めくやシティーホテル 鈴木陽子
練習が嫌なら福笑どうぞ 仮屋賢一
ポケットに突っ込む買初の熨斗烏賊 近 恵
埋もれ毛のひよろひよろ伸びる二日かな 西川火尖
罰としてそのまま鏡餅でゐよ 西原天気
四散する口内のグミ年新た 豊永裕美
たづくりを食べてそれから書き起こす 福田若之
首元の影くつきりと初写し 中西亮太
玄関に靴あふれゐるお正月 西村小市
身の上を根ほり葉ほりと訊く初湯 島 涼風
うろくづのうすももいろの淑気かな 安里琉太
初夢の潮盈珠のかろきこと 中町とおと
またつなぐため放す手や春の雨 山田耕司
読初は誰も死なない本を採る 岡本飛び地
交番のぽつりと灯り去年今年 村田 篠
一月の夜空や空をゆきわたり 宮﨑莉々香
黒腕に餅の重なる日月よ 上田信治
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■自由律俳句を読む 122
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■後記+執筆者プロフィール ……上田信治 ≫読む
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