2016-05-01

【週俳3月の俳句を読む】印象、無言、希薄さ 鈴木不意

【週俳3月の俳句を読む】

印象、無言、希薄さ

鈴木不意


青き踏む面白きこと面白く  渡部有紀子

面白きこととは何を指しているのかわからないが、「青き踏む」にはそれ自体が楽しいことを含んでいるから、読み手としてはその楽しさを「面白きこと面白く」によって追体験しているような感がある。繰り返すことで印象を深めた句だ。


春灯表紙の顔のありふれて  永山智郎

書店に並ぶ雑誌の表紙写真を思い浮かべた。ことに女性誌の表紙である。モデルは違っていても似たり寄ったりのイメージしか残らない。夜遅くまで開いている地元の書店には仕事帰りの若者を多く見かける。雑誌のコーナーが殊に賑わうが皆無言である。

草餅やビルからビルの影へ出て  永山智郎

街を意識する句だ。季節に関係なく買える草餅だが、蓬の萌える頃は昼の明るい光が気持ちいい。明るい日差しの分だけ影の色も濃くなっている。掲句は作者の足取りであろうか。ビルの内から外へ踏み出したらビル自身の影からは出ていなかった。しかし影の及ばない先は日差しで明るいのだ。影の中のから見える明るさへの安心感が湧いたのではないか。


凧手応へだけになつてをり  西川火尖

これは高所で安定した凧なのだろう。十分な風を受けた凧はこんな具合で、手に持つ糸からは凧の揚力だけが伝わってくる。そうでないときは他に何かあるかと言えばやはり手応えだ。手応えの違いを証明してもしょうがない。この凧の手応えとは敢えて言うなら、穏やかな手応えということだろう。

他の句にある「空転」「試聴」「端折る」「心地」「余熱」の言葉にあるような実態の弱い希薄さに作者は興味があるらしい。


渡部有紀子 あがりやう 10句 ≫読む
永山智郎 硝子へ 10句 ≫読む
西川火尖 デモテープ 10句 ≫読む

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