【みみず・ぶっくすBOOKS】第11回
『自然の鏡/俳句拾遺』
小津夜景
ふと気がついたら、いつのまにか当初の予定の10回を迎えてしまっていたこのシリーズ。取り上げたい本はまだ手元に残っているけれど、今回をもって一旦おしまいにするつもり。
さて今週紹介するのは『自然の鏡/俳句拾遺』という本。当連載第5回で扱ったロジェ・ミュニエ『北斎画でめぐる四季の俳句』と同シリーズのアンソロジーだ。さまざまの訳者が仏語訳した俳句に、フランス国立図書館、ギメ美術館、大英博物館、メトロポリタン美術館の所蔵する日本画が計58枚添えられている。
これ、非常に目のゆきとどいた俳画集である。定価だとそれなりの値段だが(19€=約2400円くらい)、買って損はしないセレクションだと思う。
なお今回は原句を引かず、フランス語をそのままトレースする感じで日本語に訳してみた。
暗い海に
鴨の声が
蒼ざめている
松尾芭蕉(この絵は歌麿?)
闘うを
吾に見守られ
蛙かな
小林一茶(歌麿「蛙とこがねむし」)
夕風や
青鷺の脚が
川を割る
与謝蕪村(歌麿「鵜と鷺」)
潮干狩り
拾うものみな
うごめきぬ
加賀千代女 (歌麿「潮干のつと」の一枚)
初旅は
いくつの時か
かりがねよ
小林一茶(広重「高輪之名月」)
年ごとに
菊を想いて
想われて
正岡子規(北斎「菊と蜂」)
花に狂い
月に驚く
胡蝶かな
三浦樗良(北斎「牡丹と蝶」)
朝風が
毛虫を吹くを
見ておりぬ
与謝蕪村(歌麿「馬追虫とむかで」)
廃屋の
地を這っている
朝顔よ
正岡子規
さいごの朝顔は酒井抱一の筆? 違ったらごめんなさい。なんにせよ左下のカマキリの翡翠色が綺麗で夢のよう。句には書かれていない小さな幸福が、そっと添えられたみたいだ。
・
これで【みみず・ぶっくすBOOKS】シリーズはしばらくお休み。自分自身がこれっぽっちも知らないことについて本当に10回以上も書くとは思わなかった。それもこれも巷に面白そうな俳句の本がたくさん存在したお陰である。ぜんぶ寄り道みたいなレポートではあるものの、フランス人がどんな風に俳句を楽しんでいるのかその雰囲気が少しでも伝わったとしたら、とても嬉しい。
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