【八田木枯の一句】
風の中の銀河となりぬ誘惑へ
太田うさぎ
風の中の銀河となりぬ誘惑へ 八田木枯
第一句集『汗馬楽鈔』(1988年)より。
黙読しながらつい中島みゆきの「地上の星」のメロディーが頭の中で鳴りもするのだが、風に瞬く星というのは詩的イメージを膨らませやすいモチーフなのだろう。
〈風の中の銀河〉。かっこいい。けれどちょっと恥ずかしい。更に〈誘惑〉である。まあ、どうしましょう、と思う。作者が真面目な分、面映ゆさは読者に受け渡されるので困ってしまうのだ。
夜空いっぱいにきらめくミルキーウェイから誘惑への展開はまるでギリシャ神話のような浪漫趣味だけれど、〈天の川〉ではなく、〈銀河〉の硬質な響きとそこを吹き渡る風が冷たい熱情を感じさせる。そして誘惑への強い意志も。心のなかに氷点下の星をあまた煌めかせて夜空を駆ける孤独な誘惑者……書きながら一人赤面する。
後年、〈しがらみと言へば戀なり冷し葛〉〈心中して祭の笛をさがしませう〉と言った遊び心を得意とした作者に、このような若書きのあったことを覚えていたい。
2016-08-07
【八田木枯の一句】風の中の銀河となりぬ誘惑へ 太田うさぎ
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