2016-10-23

【落選展2015を読む】 補遺 全応募作より印象句 仲寒蟬 × 上田信治

【落選展2015を読む】
補遺 全応募作より印象句

仲寒蟬 × 上田信治



2. 青島玄武 「おしりの人」

仲 寒蟬 選

神様が旅立つ二両列車にて
爪先を辺境と思ふ霜柱
をさな子の尻の重たしあたたかし
おにぎりも子供も山も笑ひをる
晴れ晴れと象の交める涼しさよ

上田信治 選   

木枯しをくしやくしやにしてポケツトへ
冬帝に体毛といふ体毛を
山越えてまた菜の花となりにけり
躑躅たることを嬉しく唄ひをり
お日さまがよいしよつと夏来たりけり


5. 青山青史 「死海」

仲 寒蟬 選

閻魔蟋蟀夢なきころは殺めけり
月面の海しづかなる鵜舟かな

上田信治 選   

海豚抱くほかなき海の青さかな
あとずさる猿に後光を大旦
戦士の休息南方系の蝶放ち
籐椅子や特許許可局廃墟とし
虹を指さすたび喜びの世界


9. 奥村 明 「ZARAにあるLOVE,ないLOVE. 」

仲 寒蟬 選

水のなき初夏のプールの中歩く

上田信治 選

水のなき初夏のプールの中歩く
朝涼のパンを焦がせし蝉の声
冬近し道路横切る鹿の王


10. 葛城蓮士 「終末論」

仲 寒蟬 選

水洟をすする眼の鋭さよ

10. 葛城蓮士 「終末論」

上田信治 選

サングラス煙草手向ける花の白
路地裏の八百屋の留守や冬ひでり


11. 加藤絵里子 「ものの芽」

上田信治 選

春を読みさして海までささくれる
梅干しの苦手な人の背中かな
星瞬く自分の靴をはいてをり


12. 加藤御影 「蛇苺」

上田信治  選

倒れたる空壜の先虫の闇


13. きしゆみこ 「まつはる色」

仲 寒蟬 選

門番の薄紫の午睡とも

上田信治  選

遠目にも広場が見えて鐘涼し
街の灯の中を明るき涼み船
蜘蛛が囲を張るやうに池凍りたる


16. 吉川わる 「アディオス」

仲 寒蟬 選

プラタナスらせんとなりて芽吹きけり
黙黙と天ぷら食らふ夕立かな
鉄棒の匂ひ残るや曼珠沙華
耳の穴きれいに見えて春着かな

上田信治  選

おとなしく傘たたまれて花の冷


17. 杉原祐之 「日乗」

仲 寒蟬 選

畦塗の準備のままの猫車
明らかに人手不足の神輿来る

上田信治  選

遠足の子の聖堂に静まれる
海の日や海岸倉庫飾らるる
キャタピラの轍の残り厚氷


18. すずきみのる 「初扇」

仲 寒蟬 選

とかげ息せりあまた罅あるつち壁に
新聞の厚みうれしき初景色

上田信治  選

抜く腸もぷりぷりとして春鰯
天井より涅槃図床へ垂れゐたる
花芯よりつまみてはなむぐりを剥がす
とかげ息せりあまた罅あるつち壁に


21. ハードエッジ 「ブルータス」

仲 寒蟬 選

枯草は倒れ枯木は立てりけり
大根も抜きたる穴も濡れてをる

上田信治  選

新聞も三月三日ひなまつり
空蝉と例へば空の段ボール
水槽のびくともせずに夏の夜
たまりたる落葉の下の水たまり
息のあるものが生きもの雪ふりつむ


23. 前北かおる 「光れるもの」

仲 寒蟬 選

イーゼルを倒して風や立葵
避雷舎に入れば真昼のほととぎす
牛乳を飲んで朝顔数へけり

上田信治  選

イーゼルを倒して風や立葵
五月雨の甘く匂へる板廊下
吊り橋をとほり抜けたる螢かな
奥山に金湯館や霧を積む
牛乳を飲んで朝顔数へけり
夕紅葉家族を置いてきたりけり


25. 宮﨑玲奈(宮﨑莉々香)「眠る水」

仲 寒蟬 選

鳥来れば泉の泉らしくなる
オムライスの丘を崩せば春はじまる
レガッタの一人遅れて櫂を取る

上田信治 選

古本は菓子の香マスカットが近い
蔦である或るいは図絵の窓である
卒業や写真にうつる大きな木
あげまんぢゅうのぢが好きなのだ春の虫
教室に蝶いて先生がやさしい
金魚泳げばうしろを眠るような水

 26. 薮内小鈴 「声真似」

上田信治  選

炎昼や蛸も狐もビルかげに
ふと止まりふと動きだす団扇の手
傘よりも明るき脚で鴨およぐ

しましまの街もあるらん花曇





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