【八田木枯の一句】
黒傘ひろげ十月えとらんぜ
太田うさぎ
黒傘ひろげ十月えとらんぜ 八田木枯
「雷魚」89号(2012年)より。
エトランゼ:étranger。英語に訳せばストレンジャー。日本語では、見知らぬ人、異邦人、旅人、などが相当する、という説明など要らぬ程度には知れ渡っているフランス語だろう。
十月は秋の深まりを知る月。色づく木々や水の静けさや雲の行方、あるいは頬をすり抜ける空気の冷たさがいつのまにか人を物思いに向かわせる。ちょっとした孤独感にフランス語の甘美でアンニュイな響きは良く似合う。
大きな蝙蝠傘を開いて街へ出る。傘に隔てられ、見慣れた通りの景色も雑踏も途切れ途切れに目に入り耳に届く。なんだか他郷を行く旅人になったような気分。張り巡らされた傘の黒い輪郭を内なる国境として雨の街を漂うとしようか。
外国語を平仮名で表記するとどうしても稚気や甘さが押し出される嫌いがあるけれど、この句の場合、〈黒傘〉はそれを十分引き締め、また洒落た道具立てとなっている。八田木枯晩年の一句として捨てがたい。
2016-10-16
【八田木枯の一句】黒傘ひろげ十月えとらんぜ 太田うさぎ
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