2016-11-20

ありえん良さみ 黒岩徳将

ありえん良さみ

黒岩徳将


株式会社LIGの元ライターのさえりぐさんがこのようなTweetをしていた。

「正しくて美しい日本語が必ずしも大事とは思わないし、新しい言葉をどんどん生み出す柔軟な姿勢は大好きだけど、そうだとしてもちょっと何言ってるかわかんなくて笑うしかない」(原文ママ)
https://twitter.com/saeligood/status/794819174585565184

話題になっているのは【第58回京都大学11月祭統一テーマ】、要するに文化祭のキャッチコピーである。内容は以下である。

「ぽきたw魔剤ンゴ!?ありえん良さみが深いw京大からのNFで優勝せえへん?そり!そりすぎてソリになったwや、漏れのモタクと化したことのNASA(掌の絵文字) そりでわ、無限に練りをしまつ ぽやしみ〜」(原文ママ)
公式ホームページには趣意文も公開されているので是非見ていただきたい。

初めてこの統一テーマを見た読者はどのように感じただろうか。筆者はこの統一テーマに対して、「ちょっと何言ってるかわかんなくて笑うしかない」と「笑う」だけでなく、一つ一つの単語を分解し、書かれた内容とフレーズの持つスタイルの響き合いを考察することも面白いのではと思った。俳句の鑑賞と同じである。

まず、「ぽきた」「ぽやしみ〜」はそれぞれ、「起きた」「おやすみ」をもじっていることが推測できるだろう。ア行の代わりにパ行を用いることで、馬鹿らしさを演出できる。起床から何かが始まるかと思えば寝る、生産的活動が成されていないことで怠惰を礼賛する姿勢がうかがえるだろう。

次に、「ありえん良さみが深い」(≒「とても良い」)、「練りをしまつ」(≒「寝ることをします」≒「寝る」)などと、短い名詞を「動詞」+「する」の形に引き延ばしていることに注目したい。冗長な文体が醸し出す無意味性に、つい身を委ねてしまいたくなる。

最後に「そり!そりすぎてソリになったw」の初めのそりは「Sorry!」を表していると思われるが、二つ目の「そりすぎて」は「Sorry(という気持ちが強)すぎて」もしくは「(身体を)反りすぎて」と解釈できる。その後の「ソリ」になった、は柔軟なイメージを持つ「反り」から、いきなり固さを感じる「橇」に移行するので、ここはあまり成功していないと感じた。いずれも、「そり」という言葉から導き出されるイメージの多様性を狙っているのだが、後述の「NASA」にも同じことが当てはまる。「無い」という言葉の持つイメージを、宇宙ステーションを持つ「NASA」に大きく転換しているように見せかけ、実は宇宙空間の「無」感に帰着することができるので、「無さ」と「NASA」の距離感は絶妙である。

株式会社LIGはホームページを閲覧すればすぐわかるように、社会においてくだらないと一笑に付されてしまいそうなことを、全力で取り組むことに価値を置いている。数年前に就活生を騒がせた「即戦力の男 菊池」などが記憶に新しい。そう考えると、LIGと京都大学11月祭の関係は意外と近い。

俳句にも、馬鹿馬鹿しいことを臆面もなく紹介するという面白さが存在する。

蠅とんでくるや箪笥の角よけて  京極杞陽


参考:
株式会社LIG
https://liginc.co.jp

京都大学11月祭ホームページ
http://nf.la/what/what.html

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