【週俳10月11月の俳句を読む】
楽しかったです
松本てふこ
早退や街は銀杏の重さして 樫本由貴
この句の作中主体はきっと普段は健康体なのだろう、上五からは非日常への不安と微かな心の浮き立ちが伝わる。人気のない住宅地を縫うように歩いた私自身の早退の記憶もよみがえる。かすかな湿り、臭いなどからくるイメージも含めて「街」を銀杏にだぶらせているのかなと想像すると共感と不思議さ、両方を感じる。
いわし雲微熱の指の長さかな 福井拓也
十三夜おほきなおほきな砂時計
「学生俳句特集」の仕掛人である堀下翔が「里」2016年12月号の時評欄でも紹介していた作家である。堀下の「おれが見つけた作家だぞ」という、静かな意気込みを感じる。
時評欄での万太郎作品との類似点の指摘が非常に興味深かったので気になった方は是非「里」を何らかの方法で手に入れて欲しいのだが、今回の週俳での作品で、堀下の時評欄を読んだ際に自分なりに掴んだつもりだった彼の作品の傾向がまた分からなくなった。
題材の選び方か、はたまた秋の季感によるものか、湿度や潤いは少なく、作品の舞台は日本ではないのかな、とすら思った。時に渋みのある季語を用いながら、どこか日本の情緒とは異なった美意識で切り込んでいる印象があり、ふとした色気と謎が垣間見えて楽しく惑った。
肉入れて波の立つなり芋煮会 斉藤志歩
ごつん、ごつんと石のように言葉がぶつかり合う句が多く、読みながらちょっと驚いている自分がいた。そのぶつかりあいをおかしみにつなげられると、この作家は強い。この句は肉の質感が確かなところと「なり」の妙に力が入っているところが肝というか、チャーミング。
火恋し画集の海のみな日暮れ 平井湊
19世紀のイギリスの画家・ターナーの絵を連想した。画集の中に広がる海の黄昏を眺めながら、自分の中にあったある気持ちがゆっくりと終わっていくのを作中主体はひとりかみしめているのだろう。
2016-12-25
【週俳10月11月の俳句を読む】楽しかったです 松本てふこ
第497号 学生特集号
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