2016「石田波郷新人賞」落選展
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2. こゑなく 樫本由貴
一日の明易きこと耳鳴りす
この夏の木に窪があり木が匂ふ
連れ立ちて茂りを過ぎぬたましひも
はつ夏を来て風のなき飛行場
あぢさゐのいつもむかうに見えにけり
雲ひとすぢ瞼すゞしく歩む馬
その中のものみな薄し梅雨の部屋
茄子が吸ふ油にけふの夕陽かな
冬瓜を入れて都会の鍋狭し
口笛や秋光荒き川ほとり
秋の野へ汽車を知らざる子供たち
沿線へカンナ咲かせて雨の家
初時雨きのふの酒を吐きにけり
手袋の何を待つともなく毛玉
そここゝに寒椿ある朝の闇
おそ春の花を購ふ暮らしかな
血は流れ水は溜まつて春の癌
乳呑み子のこゑなく遊ぶ日永かな
平成を菜飯の塩の輝きぬ
読み捨てて本はベッドに鳥雲に
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