【週俳5月の10句作品を読む】
花のことば
小林すみれ
いくつものこゑのまとまる夕桜 青木瑞季
花見の席では四方から声はするのだが、桜を見ると何故か皆同じことを言う。「きれいだなあ・・」はもちろん、しみじみと、「あと何回見ることができるのかなあ」と。夕方の桜は尚更人々を惹きつける。桜ソングはあまたあるが、たぶん心情はどの歌も変わらないと思う。花は桜だけではないのに、この花は何故こんなにも日本人を、そして多くの外国人を虜にするのか、そこにはどんな秘密があるのだろうか、とつい花時に考えてしまう。
うすびかりして花過の四肢の端 青木瑞季
花疲れを引きずった凝り固まった身体が、少し緩んで薄桃色に光っているのだ。その瞬間をとらえているのだが、四肢の端々を労わる眼差しと、桜に浮きたった心の名残を惜しんでいる様子が見えてリリカルである。やがてうすびかりが消えて、夕暮れが膝までせまっていることに気づくのだ。
みづかきの昏さにたんぽぽの綿毛 青木瑞季
省略されている分、受け取り手はいろいろと想像できる。普段は通り過ぎてしまうような水辺の一こまなのだが、そこにとどまって飽きずに鳥を見ている。鳥は水から上がり、たんぽぽの綿毛が飛んでいる草の中にでもいるのだろう。そこに蹼の昏さを見たのだ。発見である。たんぽぽの綿毛のふわふわとした白さも鳥の羽毛と呼応して、印象的な一句。
茉莉花や短き電話秘書課より 岡田由季
作品に花の季語が置かれている中で、物語性をみつけた一句。スマートフォンで事足りる世の中ではあるが、この秘書課には付き合いはじめて間もない恋人がいて、二人で決めた短い暗号があるのだ。きっと他愛ないことを仕事にからめて伝えているのだろう。短い電話なので迷惑でもない。そんなことも今は楽しい。「愛らしい」という花言葉を持つジャスミンは、香り高くいっそ清々しい。
同じこと違ふ言葉でアマリリス 岡田由季
他の言葉を探す時は、やはり相手を思いやる時だ。あるいは子どもにわかり易い言葉を選んでいるのだろうか。アマリリスという花のリズムが、浮き立つような心持や、相手への好意を示している。太陽に映える開放的な花の赤にも元気をもらえる。
雨後の薔薇大きく息をしてゐたる 岡田由季
薔薇も息苦しさを味わうような激しい雨だったのだろう。
雨で勢いを失くした薔薇も、大きく息をして立ち直った。薔薇が一斉に息をすると芳醇な香りが辺りに広がりそうだ。そして自分自身もリフレッシュして次に進むのだ。
2017-06-11
【週俳5月の10句作品を読む】花のことば 小林すみれ
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