佐藤文香が『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』(左右社)を紹介する
佐藤文香
俳句のアンソロジーができました。
こういう本です。
『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』佐藤文香編(左右社)
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多様性を届けたい、という気持ちをつよく持って編集しました。一句の価値が、句が直接意味するところ以外にもある作品を尊びました。
読者のため、作者のためというよりは(それももちろんありますが)、俳句のためにつくった本です。ご覧いただければ嬉しいです。
よろしければ、これから俳句にハマりそうなあの人へのプレゼントにも、ぜひ。
「読み解き実況」アウトテイク(拾遺)
◆上田信治さんとの対談後
上田 特にこの人たちを【おもしろい】に入れた意図を、教えてもらえます?
佐藤 俳句に今まで興味がなかった人も、【おもしろい】【かっこいい】【かわいい】っていう分け方をすれば、読んでみたいと思いやすいのではないかっていうところから、先に項目ができたわけですよ。
依頼作家の人選は別で考え始めていたので、誰を【おもしろい】に入れて誰を【かわいい】に入れるかっていうのは、あとから考えることになった。
【かっこいい】は結構意味がわかる人が入ってるんですが、【かわいい】と【おもしろい】についてはなんでこの人が、っていうことが起こっています。
たとえば関悦史さんと外山一機さんが【かわいい】に入っていたりすることって、たぶん驚く人が多いですよね。
上田 それは、関さん外山さんに対するあなたの評価でしょ(笑)
佐藤 それもゼロではないですが(笑)、カテゴリの解釈の幅を広げたいって気持ちがありました。【おもしろい】に入れた人は、それぞれ「福田調」「高山調」みたいに文体があることを面白いというふうに捉えたつもりです。
上田 考えさせられる作家たちだよね。いちいちね。
佐藤 あとは、北大路さんを【かっこいい】に入れる手もあったと思うんですが。
上田 そうだね。でも、この対談では、彼の方法をどう評価するかっていう話になったんで、【おもしろい】でよかったかもしれない。
佐藤 俳句の外から見て面白いのっていうと、たぶん北大路翼になると思うんですよ。
上田 トオイダイスケさんとかは、みんな知的に面白いと思うだろう。阪西敦子さん、相沢文子さんは、ホトトギスの方法を、佐藤さんはおもしろいと思ってるわけだ。
【かっこいい】に入ってる髙柳克弘さんや村上鞆彦さんは、たしかに内容のほうに個性がある。
厳密に分かれてはいないんだろうけど、あなたは、書き方が面白い人を【おもしろい】と思ったわけだね。
◆小川軽舟さんとの対談前に
佐藤 【かっこいい】Aグループの6人の作品を見ていかがでしたか。
小川 総じて言うと静かな印象でしたね。
もちろんそれぞれの作家の生きている感情というのは背景にあるんでしょうけれど、それをストレートに熱く出すんではなくて、その出し方がとても静かな印象を受けましたね。
その中で叙情の色の濃い人と、それから理知的なつくり方の人と。そこはタイプが分かれるとは思いますけれど、とても静かだなというのが印象的でした。
佐藤 3つのカテゴリの中では、作家同士のタイプが一番似ているかもしれないな、と思います。
小川 田中裕明賞の選考委員を私やってますけれど、前回北大路翼さんが受賞されてね、対抗馬に村上鞆彦さんとか藤井あかりさんとかいました。
まあ北大路さんはある意味対極、熱い吹き出すタイプですよね。それに比べると村上さん藤井さんは、ぐっと抑えつつ、でもしっかり滲み出るものは滲み出るという、そんなかんじだったなぁ。私は好きですけどね、そういう出し方はね。
佐藤 (作家分布図を見て)ちょうど北大路翼がホットで軽い最先端に存在していて、藤井さんとか村上さんと対極の位置なので、まさにそうかなというところですね。
小川 一方のこの隅に中村草田男がいるというのもなんかよくわかるね。【かっこいい】Aグループの6人はある意味、中村草田男とはちょっと遠いタイプかな。
佐藤 この座標、福田若之さんとつくったんですが、草田男と山口誓子、高野素十あたりがこの端っこにいるかなっていう話がはじめに出て。その一方に北大路翼がいるっていうのはなかなか面白いなと。
◆小川軽舟さんに対談途中で聞いた、「主宰ってどうですか」
佐藤 村上さんほどではないですけど、軽舟さんも若くして主宰になられましたが、その責任の句作への影響って何かありましたか。
小川 やっぱり選が受けられなくなったときには考えますよね。藤田湘子という人は取り合わせのイメージが強いと思いますけれど、私が主宰になってからは、むしろ取り合わせじゃない句をつくろうと思いましたね。ほっとくと取り合わせばっかりになっちゃうので。
とかまあ、やっぱりみんないろんなことを考えながらやるんじゃないですか。
佐藤 私は総合誌に発表するとき、誰が読んでくれるかわからない、がんばって出そう、って緊張するんですが、雑誌が主宰誌になったときって、その結社のみんなの目に主宰の作品として触れるから、毎回ががんばりどころっていうか、下手できないみたいなかんじってないですか。
小川 意地張ることありますね。句会で誰も取らなかったやつは意地でも載せる(笑)
佐藤 なるほど(笑)
小川 でもそれで意地で出した句が結局よかったってことになったりもするんでね。
やっぱり結社ってどうしてもほっとくと予定調和になってくるんで、その予定調和のなかに主宰がいてはいけないということは考えておかないといけない。なんか変なことやってるって思われる句も入れとかないと、っていうかんじですかね。
予定調和な句だけだと誰もついてこなくなっちゃう。
佐藤 村上さんと共宰の津川絵理子さんは、今回は「かわいい」の方に入っています。
津川さんははじめ「かっこいい」に入れるかすごく迷った作家だったんですが、主宰になってからの方がはじけて天然っていうか、面白さが炸裂しはじめてるというか『はじまりの樹』のころより今の方が面白いんじゃないかなぁと。
小川 俳句が大きくなってきましたねえ。
佐藤 なので主宰になる良さ、難しさがあるなあと思いました。
村上さんはどっちかっていうと変わらない側なのかなとも思うんですけど。でも変わらない、型のなかでどこまでできるかみたいなのも大事です。全然突飛なものをつかわずに、有季定型で自然物を詠んで、どう面白く書けるかみたいなのは、やっぱり挑戦しているんじゃないかなと思って読みました。
小川 これでどこまでいくのか、変わろうとするのか、ちょっと楽しみなところがありますね。
◆山田耕司さんとの対談途中の話(この日は福田若之さんも来てくれてました)
佐藤 北大路翼の句がこのフォントでこう並ぶと、ああやっぱりもっとたくさん並んでていいんだなーって思うんだよね。
福田 いや、これはこれでいいと思いますよ。翼さんの句って、たしかにたくさん並べても面白く読めるくらい軽やかだけど、嚙むとまたいい味が出て来るじゃないですか。
『天使の涎』や『時の瘡蓋』のかんじでいくとなると、翼さんは今後も句が行間ほとんどなしにぎっちり詰まった句集しか出さないかもしれない。行間が狭くて句が多いとなると、軽く読むぶんにはうれしいんですが、一句一句に踏みとどまって嚙みしめるような読み進め方をするのはかなり気を張っていないと難しい。
だから、こういうかたちで読めるのはうれしいです。
山田 北大路さんは素材がものすごくあっち系なんだけど、変態ではないよね。
非常に骨が正しいっていうか、すごくスジの健やかな人で。健やかっていうのは彼に対して褒め言葉なんだか侮辱なんだかわかんないところが面白いわけですけど。
佐藤 阪西敦子もいいんですよね〜。〈自転車はざざと止まりぬ黄水仙〉。
福田 ああ〜。
山田 阪西さんは伝統派のなかにおいてかなり変態ぶりの高い人だよね。読者の目を気にしていないというツッパリかたにおいて。せっかく「かわいい」の席にお招きいただいているのに、わたしは「変態」ぶりの指摘ばっかりして申し訳ないんだけど。
福田 敦子さんは、すごい不意打ちで繰り出しくるようなところがないですか。変態ぶりを。
山田 変な話なんですけど、阪西さん、ふるちんなんですよね。覆い隠すものがない。
佐藤 あははははは。
山田 伝統のど真ん中にふるちんで仁王立ちっていうのはなかなか美しい風景だよね。
福田 (笑)。その評はたぶん出版した場合の反応が冷ややかな……。
山田 阪西さんが出てるのを楽しみに本を買った「ホトトギス」の方々にはショッキングな表現かもね(笑)。
外山一機さんなんかは、ふるちんじゃなくてフルアーマーっていうか。自分の内情が見えないようにいろいろカバー入れてくじゃないですか。
阪西さんはどちらかというと、逆。「素のあたしになんか問題あるわけ?」みたいな、自分の感性にしのごの言われる覚えはない、という風合いの開き直り方をして「ふるちん」という、ま、喩なんですけど……。
佐藤 「ふるちん」という章が必要だったか……。
天の川銀河発電所【PV】
「天の川銀河発電所」
作詞・声:佐藤文香
作曲・編曲・演奏・歌:トオイダイスケ
コーラス:平戸夏生(佐藤の妹)
曲中俳句朗読:福田若之、生駒大祐
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