【週俳10月の俳句を読む】
別なものを見る
木村オサム
同じものを見ていても、俳人にはふっと、いつもとは異なる別なものが見えることがある。そんな瞬間を詠んだ句が好きだ。
天の川乳酸菌を手懐けて 牟礼 鯨
天の川乳酸菌を手懐けて 牟礼 鯨
テレビのCMなどで、「腸内フローラ(腸内の花畑)」という言葉を聞くことがある。腸内の乳酸菌があたかも花畑のように見えるということで、その内、免疫力を高めたり、腸の働きを助ける菌は善玉菌と呼ばれ、病原菌を悪玉菌と呼ぶらしい。
さて、掲句の作者は、夜空に浮かぶ天の川の対岸どうしで七夕の逢瀬を終えてしまった翌日から、また会いたい思いを募らせる牽牛と織姫の姿が見えたのだろう。そして二人に手懐けられた乳酸菌のような星が互いの気持ちを伝えるメッセンジャーとして天の川をひょろひょろと流れゆく姿が見えたのだろう。
花野から戻り拡大鏡に瞳 山岸由佳
様々な秋草の咲き乱れている野から戻った作者は、摘んできた或る草をよく観察しようと拡大鏡で覗き込んだのだ。すると、草が見えるより先に、拡大鏡に映る自分の瞳が見えたのだ。一瞬はっとしたが、改めてレンズに映った自分の瞳を見ることも、それはそれでまんざらでもないのだ。
十六夜を巡れば骨の軋みけり 上森敦代
名月の翌晩、作者は散歩でもしていたのだろう。すると町のあちこちで骨が軋む音が聞こえてきたのだ。そして、どうやら自分が通り過ぎると、なぜか骨が軋み始めることに気づいたのだ。やがて、月光を浴びて大量の骸骨が動き出している光景に出くわすことになる…
ちょっと怖くもあり、ユーモラスでもある句。
裏側にファスナーのある秋思かな 藤井なお子
ファスナーが裏側に付いている洋服を着ているのだ。そんな服はファスナーの上げ下げがやりにくいのだ。だが、全くやれない訳でもない。そのあたりの微妙な違和感、微妙なもどかしさに作者は秋思を見つけたのだ。
そして、秋に感じるものさびしい思いは、そんなファスナーを開いてしまえば、意外にあっさりと消え去る程度のものさびしさなのかもしれない。
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