【句集を読む】
書物という世界
岩淵喜代子『穀象』の二句
西原天気
句集を読んでいて、離れたページに収められた二句あるいは数句がセットになって心に残ることがある。
緑蔭の続きのやうな書庫に入る 岩淵喜代子
古書店に籠りて鳥の巣の匂ひ 同
一句目。緑蔭と書庫の類似は、色ではない。形状は、互いに遠くはないが(左右両側に樹々が、書架が並ぶところ)、それほど似ているわけでもない。にもかかわらず、得心できるのは、遮蔽され、包み込まれる感じ(物理的ばかりではなく、気持ちの面で)のせいだろう。
イメージの美しさは、緑蔭と書庫の属性の交換に起因するのだろう。すなわち、緑蔭は書庫から、その古びた外観、時間の蓄積を受け取り、書庫は緑蔭から有機的な質感を受け取る。
二句目。古書店のあの匂いに、藁やら土を感じ取るという句。鳥の巣を嗅いだことはないが、きっと古書の埃っぽい匂いがするのだろう。
二物(古書店と鳥の巣)の形状の(それほど近しくない)類似が妙味。同時に、「籠りて」の一語が「鳥の巣」にも響き、二物のイメージ・質感が往還する。
二句ともに、書物の世界が、閉じて、小宇宙の様相。このとき、書物がブツとしても世界を構成している点、注目すべき。多くの場合、ブツではなく、書物に描かれた世界・書かれた内容が意味する世界を要素としているのだから。
岩淵喜代子『穀象』(2017年11月/ふらんす堂)
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