〔今週号の表紙〕
第572号 ポットホール
大江 進
谷川や磯浜で、波をよくかぶるような場所の固い岩盤上に大きな丸い穴があいていることがある。ポットホール(pot hole)である。日本では古来より甌穴(おうけつ)と呼ばれてきた。つまり味噌がめや漬物用などのかめに似た穴という意味であるが、最近ではかめなど使うことも見かけることも滅多になくなったせいか、あるいは甌穴という漢字の読み書きが困難なせいか、むしろポットホールという名前のほうが圧倒的に通じるようになってしまった。
岩盤に亀裂などがあると水流はそこで撹拌され渦をまく。水だけでは固い岩はそうそう削れないが、懸濁流の場合は水に混じった砂礫などが激しく岩面を打ちつける。そうしてすこし大きくなった穴は、流水や波にさらに大きな渦を生じさせる。やがてその穴に大きめの岩がはまりこむと、今度はその岩がわが身を削りながら同時に相手=穴の底や内壁も削っていく。
写真のポットホールは、鳥海山の西端が日本海に接したところにあるもので、長径1.8m、短径1.3m、深さは0.9~1.2mもある大きなポットホールである。おそらくは1804年の大きな地震で海岸一帯が1.5m程度隆起したために、今は海面よりやや高い位置にあるのだが、それまでは波が常時ざぶざぶと洗っていたであろう。中にはまりこんでしまった岩は大きすぎて反転することはないものの、海水といっしょにごりごりと動いて、いずれも角が丸くなっている。
水滴が岩をも穿つとはいうものの、やはり砂礫や岩が研磨剤として作用することなしにはそんなに簡単に岩に穴があくものではない。しかし年平均0.1mm削られるとしても1万年経てば1m、10万年経てば10mである。実際、鳥海山の年齢や、そこからの溶岩の流出の時期を考えれば、このポットホールは何万年かの時間を内包しているかもしれない。
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