〔今週号の表紙〕
第612号 冬木立
第612号 冬木立
市川綿帽子
「木からはなにが降ってくると思う?」長田弘先生が尋ねた。「花びらですか? 葉ですか?」「いや、両方とも違うね。冬の裸木ならば?」
結局、先生の生前にわたしは答えを見つけることができなかった。ある午後、ふっと、いっぽんの木を眺めていると、先生の声が聞こえたような気がした。(あ、木から降ってくるのは死者の声なんだ)そのときに初めて気がついた。というより、先生が答えを教えてくれたのだとおもう。それから、木というものがわたしにとって特別な存在になった。何か困ったことがあると木を見上げる。すると故人の顔が浮かび、声がおりてくる。
「人はいっぽんの木」と先生はいつも語っていた。
この冬木のように毅然とした姿勢で地に立つことができるだろうか。
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