2019-02-10

空へゆく階段 №4 解題 対中いずみ

空へゆく階段 №4 解題

対中いずみ

「青」終刊後「ゆう」創刊までの間に約8年ほど「水無瀬野」時代がある。田中裕明を中心とする句会の会報である。メンバーには夫人の森賀まりさん(「百鳥」「静かな場所」同人)や山口昭男さん(元「ゆう」編集長、現「秋草」主宰)もいた。

「三橋敏雄さん」文中にある「水無瀬野」第一号の巻頭言の文章も以下に記しておこう。

裕明は三橋敏雄の作品を畏敬していたのだろうし、仲間にも読んでほしかったのだろう。裕明は新興、伝統といった区別はなしに、いい作品はいいとする人だった。

「ゆう」2002年10月号に「三橋敏雄さん」と前書きして次の三句を発表している。

  長躯とは浮いてゐること鬼やんま

  亡き人に新作のなし稲の花

  穴惑亡き人に弟子入志願


≫田中裕明 三橋敏雄さん



かもめ来よ 田中裕明

「水無瀬野」第1号・1992年3月)

三橋敏雄さんの「海」という句集は現在までに発表された作品の中から海という主題に係わりのある俳句を選んだものである。作者は日本丸、海王丸などの事務長として長い船上生活を過ごした。

  かもめ来よ天金の書をひらくたび

  何処かに水葬犬が嗅ぎ寄る秋の海

  秋いかに長濤を作す力かな

  霜柱海のこなたの寂しさに

初期のものから現在に至るまで通底しているのはニヒリズムとそれに相反するひろやかな精神である。ものに託して海を詠むことが特に初期の作品にはあらわだが、最近はそういう寄物も必要としない自由な詠みぶりである。そして自分がいま立っているところは「海のこなた」であるという意識が非常に強い。かつて海は憧れのまたは畏怖の対象としてあったが、いまではいつか帰って行く故郷として思われる。作者にとってこの変化はじゅうぶんに納得のゆくもので、それがこの句集の口吻にも現れている。「かもめ来よ」というのは一つのマニフェストであったろうと想像されるが、のちの「長濤」にもおなじ精神が持続している。どちらも丈が高い。


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