2019-04-14

【句集を読む】命長ければ 雪我狂流『春の海鼠』 西原天気

【句集を読む】
命長ければ
雪我狂流春の海鼠』を読む

西原天気


たんぽぽを踏みて木の根に転びけり  雪我狂流(以下同)

視線は下を向いているのに、転んでしまう。老い? 桜を見ていたのなら、足元への注意はおろそかになる。桜は走り根が隆々としているし、つまずいやすそう。

『春の海鼠』はA6判(てのひらサイズ)・本文36頁をホチキスで留めた私家版句集。作者はこれまでもこのスタイルで多く句集をつくってきた。通常の句集のような費用もかかっていないし、気負いもない。

収められた約100句には、《手の平で平たくなりし春の水》といった技巧的・いわゆる俳句的な小品もあれば、《御神籤の結び目五角梅七分》といったことば遊び(数詞遊び)もあれば、《絵の地図の折り目の山の笑ひをり》といった虚と実の軽妙な同居もあれば、《てふてふよちあきなおみはひらがなよ》といった人名を遊び仮名遣いを遊んだ句もある。どれも愉しめるし、《巣箱より家がどんどん高くなる》は《巣箱より高きところに住んでをり》(『俳コレ』2011年・所収)の後日談として、やはり愉しい。けれども、それらにも増して心に残ったのは、掉尾のこの句。

墓場から笑ひ声して夏近し

死と夏(の生命感)の対比といってしまえばそれまでだが、この笑い声は、みょうに美しくきらきらしている。「夏がもうじき」感がきらきらとあふれているのだ。

この句のあと、その対抗頁(見開きの左側)には、あとがきのごとく、次の文言。

命長ければ、恥多し。 莊子

しゃれている。気が利いている。私も、もうすこしのあいだ、恥を、俳句を、かいていこう、何度か夏を迎えよう。そう思いましたよ。


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