【句集を読む】
あの白は
有住洋子『景色』の一句
西原天気
捕虫網だつたのだらうあの白は 有住洋子
森の、あるいは樹々のなか、遠く翻った白を思い返す。そのとき、「あっ、捕虫網」と認識したのではなく、いま思えば、という話。
「だった」という過去形から、まずは数時間前の過去のことと思えるが、ひょっとしたら、数十年前なのかもしれない。俳句は、、説明でも限定でもないので、読みのなかにレンジが生まれる。
「だろう」のもたらす推定/不確かな断定とあいまって、この句の「白」、この作者の見た「白」は、はっきりとした形象をもたず、光のごとく不定形。
一瞬見えた景色を思い返したときの思いがそのまま綴られているようでいて、時間や距離や、明るさやさらには温度までが読者たる私に伝わる。
なお、集中、いわゆる口語的な句は多くない(為念)。以下、気ままに数句。
白桃に日のまはり来る山河かな
長き夜を倒木内側より朽つる
ひとへやに盆提灯とうすやみと
壺庭に苔深々と雨月かな
街道の途中凍つてゆく途中
有住洋子『景色』2018年10月/ふらんす堂
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