2019-06-09

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜 ドクター・ジョン「スタッカリー」

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜
ドクター・ジョン「スタッカリー」


天気●6月6日にドクター・ジョンが亡くなりました。享年77歳。大好きなアルバムがたくさんあって、何を聴くか迷うのですが、ここは原点に帰って、最初に聴いたアルバム『ガンボ』(1972年)の冒頭1曲目、「スタッカリー」を。


天気●ニューオリンズのスタンダード曲のカヴァー集。大名盤のこれ、買ったのは高校のとき。日本盤が出てすぐのとき。この手の南部音楽の入門LPみたいな感じでした。

憲武●いやー、ゴキゲンですね。まさに「下半身モヤモヤ」「みぞおちワクワク」「頭クラクラ」という音楽の三要素を揃えていると申しますか。

天気●ちょっとした思い出があってね、当時、化学の先生が目を患って、自宅療養中でね、友だちとお見舞いというか遊びに行ったんです。すると、居間にすごいステレオセット置いてあって、、それこそ1辺1メートル以上のJBLスピーカーに、高音部ツイーターはアルテック。目が悪くなったので、楽しみは耳になる。そこで、再生装置に費用をかけて、音楽を愉しんでるということなんですね。

憲武●なるほど。

天気●でね、そのとき、ドクター・ジョン『ガンボ』を買った帰り道だったもので、私が持ってるレコード袋を見て、「それ、掛けてみようか」と、先生、言うわけ。無伴奏チェロやらジャズやなんかを掛けてくれて、「わぁ、やっぱりいい音ですね」とか感心しながら聴いたあとで。

憲武●はい。いい先生ですね。

天気●大音量で、この「スタッカリー」の前奏ピアノが流れ、それからドクター・ジョンのカエルを踏み潰したようなダミ声が流れた。あのねえ、そのとき、わかったのは、こういう高価な再生機やリスニングルームとドクター・ジョンはぜんぜん合わない! その場もヘンな空気になってね、なんか、恥ずかしいような、ドクター・ジョンに悪いことをしたような。奇妙に鮮明な記憶なんですよね、その午後のこと。

憲武●ははは。

天気●さて、この曲、物語歌(バラッド)。スタッカリーは実在の人物で、1890年代の今で言えばヤクザ、チンピラ。バーで口論になった相手を撃ち殺してしまう。この歌の最初の部分ですね。その事件を元に、いろんな伝説や歌が生まれていったみたいで、そのへんは、この記事でどうぞ。

憲武●グレイトフルデッドだったかなあ。「スタッガーリー」って曲。なるほどこういうことだったんですね。

天気●歌詞の面白さはそれとして、最初に聴いて衝撃的だったのが、ニューオリンズ特有の、叩くような、音の転がるようなピアノ。

憲武●この音は印象的ですよね。「泰安洋行」というアルバム聴いてると、確実に影響受けてるなと思いますもん。で、細野晴臣のルーツミュージックとしての「ガンボ」も愛聴盤になりましたわたし。

天気●ピアノ弾き、歌い手というだけでなく、伝統の広報マンみたいな役割も果たした。それでいて、やさぐれた場末感を失わない。ドクター・ジョンは偉大です。


(最終回まで、あと902夜) 
(次回は中嶋憲武の推薦曲)

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